2013年6月27日(木)

人をどう扱うか、それが国や社会への物差しになる
―アルフレド・ジャー
~7組のアーティストたちによる愛のかたち。(後編)

7組のアーティストが参加者らとともに展覧会会場をめぐり、リレー形式でトークを行ったアーティスト・リレートーク「All You Need Is LOVE」(4月26日開催)。前編のチャン・エンツー、エンタン・ウィハルソ、ゴウハル・ダシュティ、寺岡政美に続き、後編では、榮榮(ロンロン)&映里(インリ)、ローリー・シモンズ、アルフレド・ジャーによる「LOVE展:アートにみる愛のかたち」のトークの様子をレポートします。


作品の前のアルフレド・ジャーと参加者たち


「家」は滅びる運命、その瞬間を残すことが存在の証明だった~榮榮&映里


榮榮&映里

榮榮(ロンロン)&映里(インリ)(榮榮:1968年中国生まれ、映里:1973年神奈川県生まれ)は自分たち夫婦を被写体とし、子供が生まれて5人家族へと変化する様子を、家の前で定点観測的に撮影した「草場地、北京」シリーズ(2004年-)を出展している。中国出身の榮榮と日本人女性の映里が出会った頃、互いに共通の言語はなく、写真を通してのみ交流を持ったという。その後、一緒に生活し共同制作を始めてからの約13年間、二人は北京に住みながら、街の再開発による家の取り壊しの現場を数多く見てきた。「草場地」は北京北東部の村で、現在はアーティストの活動拠点として知られるが、彼らが住みはじめた当時、ここも例外ではなく村ごと取り壊される運命だった。「家は永遠という概念をもつものではなく、むしろその住人とともに、滅びる運命を持つ存在だった」と二人は当時を振り返る。そして、「常に共にある仲間、あるいは存在として、自分たちと一緒に記念写真的な作品を撮り、その瞬間を残していくこと、自分たちが共にここにいることを証明することだった」と作品への想いを語った。


「草場地、北京」シリーズの前で


ラブ・ドールの「ベルニーニ級」の美しさに魅せられた~ローリー・シモンズ


ローリー・シモンズは、「ラブ・ドール」シリーズより5点を出展している


ローリー・シモンズ

ローリー・シモンズ(1949年ニューヨーク生まれ)は、2009年に娘と来日した際、マンガ店に貼られたポスターでラブ・ドールを発見した。実物大の人形の美しさに魅せられ、すぐにそれらをニューヨークのスタジオに取り寄せ、自宅で撮影することを決めた。ラブ・ドールは本作「ラブ・ドール」シリーズ(2009年-)によって新たな人生を得たわけだが、本来の用途から救い出すことがねらいではない。「娘と一緒に発見したことがインスピレーションの始まりだった」というシモンズ。彼女にとって人形は、本人が「ベルニーニ級」と呼ぶみずみずしい美しさによって、本来の目的を軽々と超えた存在となったのだろう。


社会や政治が人をどう扱うか、そこから国や社会に物差しを当てたい~アルフレド・ジャー


アルフレド・ジャー

アルフレド・ジャー(1956年チリ生まれ)は、「あいちトリエンナーレ2013」の準備のため、何度か来日をしている。トリエンナーレで焦点を当てるのは東日本大震災とその後の日本社会である。2013年に制作された3点の出展作《沈黙(a)》、《沈黙(b)》、《声》はその調査の過程ともいえる作品だ。ジャーは現地に赴き、無線で避難を呼びかけ続けた職員が亡くなった防災庁舎や、石巻の仮設住宅を撮影しているが、「様々な人が、何かを探し求めるかのように歩いていた。まるで生きる意味合いを模索して歩いているような感じさえ受けた」とその印象について話す。もうひとつの出品作《抱擁》(1995年)は、1994年に起きたルワンダの大虐殺を題材とするが、この出来事に対し国際社会から手を差し伸べられることは一切なかった。そこでジャーは、何千という写真を撮影し、その悲惨さを訴えるのではなく、「何も行動を起こさないという社会現象」を表現することに徹したのである。「天災が起きたあと、社会や政治などが、人々をどのように扱うか。そこから国や社会に物差しを当てることができるのではないか」。ジャーは、どのように現在の日本を表現するのだろうか。


会場の様子

アーティストたちの活動の根源にあるのはより平和で豊かな社会を追い求める姿であり、それは人間への壮大な愛に重なる。彼らの言葉は、真実を見つめることの大切さ、日々の些細な出来事を丁寧に受け止め、身近な愛を慈しみ、育む思いに満ち溢れていた。

文:白濱恵里子(森美術館学芸部パブリックプログラム エデュケーター)

撮影:御厨慎一郎
 

<関連リンク>

六本木ヒルズ・森美術館10周年記念展
「LOVE展:アートにみる愛のかたち-シャガールから草間彌生、初音ミクまで」

2013年4月26日(金)-9月1日(日)

トレイラー映像

愛は壊れやすいもの、でも期待せずにはいられない―チャン・エンツー
~7組のアーティストたちによる愛のかたち。(前編)

・1分でわかる「LOVE展」~アーティスト&作品紹介
(1)ジェフ・クーンズ《聖なるハート》
(2)ゴウハル・ダシュティ「今日の生活と戦争」シリーズ
(3)ナン・ゴールディン「性的依存のバラッド」シリーズ
(4)ジョン・エヴァレット・ミレイ《声を聞かせて!》
(5)フリーダ・カーロ《私の祖父母、両親そして私(家系図)》
(6)ジャン・シャオガン《血縁:大家族》
(7)草間彌生《愛が呼んでいる》
(8)シルパ・グプタ《わたしもあなたの空の下に生きている》
(9)初音ミク《初音ミク:繋がる愛》
(10)アルフレド・ジャー《抱擁》
(11)ロバート・インディアナ《ラブ》 & ギムホンソック《ラブ》
(12)ソフィ・カル《どうか元気で》
(13)シャガール、マグリッド、フランシス・ピカビアらが描いた恋人たち
(14)トレイシー・エミン《あなたを愛すると誓うわ》
(15)デヴィッド・ホックニー《両親》
(16)デミアン・ハースト《無題》

カテゴリー:03.活動レポート
森美術館公式ブログは、森美術館公式ウェブサイトの利用条件に準じます。