村上 隆
村上隆は、日本のバブル経済期に花開いたオタク文化に、江戸時代から脈々と流れる日本独自の感性を見出しました。その感性をもとにした「スーパーフラット」という理論を提唱し、マンガとアニメを起点とするキャラクター絵画やフィギュア彫刻を発表しています。作品では平坦な画面構成、色彩豊かな装飾、大胆な構図、奇抜なデフォルメ、遊び心に溢れたイメージを表出し、「奇想の系譜」と呼ばれる江戸期の絵師から現代の漫画家やアニメーターに至るまで、日本文化の水面下で脈動する造形精神を表象しています。村上の活動の根底にある問題意識は、欧米の価値観とは異なる日本発の言説を世界の美術界で確立することにあります。それを実現するため、欧州の美術制度の導入によって抑圧された美学を回復し、第二次世界大戦後に生きる日本人の姿を様々なプロジェクトを通して表現してきました。西洋美術の流行を追従するのではなく、日本の「リアリティ」を顕在化させる必要性に迫られたことが、日本のサブカルチャーに創作の基礎を置く発端となりました。2000年から、自身の芸術観を具現化した展覧会シリーズ「スーパーフラット三部作」を欧米で開催し、世界的な知名度を獲得しました。
本展では、村上の初期作品から東日本大震災への呼応として制作された巨大な鬼の彫刻作品と最新ビデオ作品までを紹介しています。2次元のキャラクターを3次元化した《Ko²ちゃん(プロジェクトKo²)》(1997年)、《ヒロポン》(1997年)と《マイ・ロンサム・カウボーイ》(1998年)では、日本の大衆文化に潜む欲望を誇張して表現することで、その美意識を批評的に解釈することを試みています。本展のために新しく制作された巨大絵画《チェリーブロッサム フジヤマ JAPAN》(2020年)は、観光名物としての絵画をアイロニカルに描き出した野心作です。
村上 隆アーカイブ
アーカイブ展示のセクションでは、主要な展覧会歴、カタログ、展示風景写真、展覧会評などの資料を展示し、アーティストが世界でどのように評価されてきたかを解き明かします。 会場には年表を掲示していますが、カタログバージョンを特別にPDFで公開します。
年表PDFはこちらよりダウンロードできます。(PDF/411KB)
プロフィール
1962年、東京都板橋区生まれ。日本の伝統絵画と現代美術の源流をアニメ・マンガの視覚論を通して再構想する「スーパーフラット」論を提唱。Ko²ちゃんとDOB君など、おたく文化を反映したキャラクターを多く生み出し、キッチュ性の高い彫刻作品と西洋の透視図を対極とする超二次元的な絵画を発表している。村上のサブカルチャーを基盤とする文化論は、高級/低俗のヒエラルキーを解体するだけでなく、戦後日本人の心理を批評的に描き出し、グローバル化が進むアート・シーンに日本固有の言説を確立した。また、ルイ・ヴィトンとのコラボレーションや、ストリートカルチャーと現代陶芸に着目した活動を通して、現代美術の垣根を超えた観客層を世界中で獲得し続けている。2005年に自身が企画した「スーパーフラット三部作」の最終章「リトルボーイ展」(ジャパン・ソサエティ、ニューヨーク)は、全米批評家連盟によるベストキュレーション賞に輝いた。2007年から2009年には初の回顧展「©MURAKAMI」がロサンゼルス現代美術館を含む欧米4都市を巡回。2010年以降は、ヴェルサイユ宮殿、アルリワク展示場(ドーハ)、森美術館、ガラージ現代美術館(モスクワ)、大館(香港)など、世界中で個展を開催している。