草間彌生
草間彌生は70年に及ぶキャリアの中で、多岐にわたるメディアを用いて数々の作品を発表してきました。「常同反復」や「増殖」「集積」と呼ばれる、水玉や網目模様、突起などの造形が繰り返される表現を特徴としており、これらは幼少期から度々経験する幻覚や幻聴の影響だといいます。
網目模様が画面を覆う「無限の網」(1959年-)や、無数の突起物が家具やボートに縫い付けられた「ソフト・スカルプチュア」(1962年-)の抽象表現は、発表された当時、ミニマリズムやポップ・アートの先駆的な作品として欧米で高く評価されました。一方、新境地といえるシリーズ「わが永遠の魂」(2009年-)には、人物や植物などの具象イメージが描かれています。これらは草間の幼少期の作品にも登場するモチーフです。自身が「生命の賛歌」と称する本シリーズには、生と死、光と陰、戦争と平和など相反する要素が描かれています。
本展では、ニューヨークを拠点にしていた1960年頃の初期作品から、1993年の第45回ベネチア・ビエンナーレに日本館代表として出品した《天上よりの啓示(B)》(1993年)や《ピンクボート》(1992年)、さらに最新の絵画シリーズの「わが永遠の魂」までを紹介しています。ニューヨークのアート・シーンに認められた1960年代から世界的に再評価された1990年代の作品、そして最新作までの変遷を通じて、草間作品に通底するコンセプトやメッセージを読み解くことができます。
草間彌生アーカイブ
アーカイブ展示のセクションでは、主要な展覧会歴、カタログ、展示風景写真、展覧会評などの資料を展示し、アーティストが世界でどのように評価されてきたかを解き明かします。 会場には年表を掲示していますが、カタログバージョンを特別にPDFで公開します。
年表PDFはこちらよりダウンロードできます。(PDF/406KB)
プロフィール
1929年、長野県松本市生まれ、東京都在住。1957年に渡米。画面全体に網目を描くネットペインティングや、布製の突起物が表面を覆うソフト・スカルプチュアを発表し注目される。これらの作品にみられる反復性は、幼少期から続く幻覚症状や脅迫観念の影響であり、草間の作品に通底する特徴を表している。1960年代後半にはファッション・ショーや反戦運動などのハプニングで話題となり、ニューヨークのアート・シーンにおいて重要な存在となる。1973年に帰国後も精力的な活動を続け、1990年代以降はパブリックアートや大型インスタレーションを数多く発表し、ポップな色彩と南瓜や草花など親しみやすいモチーフの作品は絶大な人気を博している。1993年第45回ベネチア・ビエンナーレに日本館代表として参加。1998年のロサンゼルス・カウンティ美術館とニューヨーク近代美術館の共同企画による個展「ラブ・フォーエバー:草間彌生」を皮切りに、世界各地で大規模な個展を開催している。2011年から2012年にはテート・モダン(ロンドン)やホイットニー美術館(ニューヨーク)など欧米4都市を巡回する回顧展を開催。2016年タイム誌で「世界で最も影響力のある100人」に選出された。