本展では、サムソン・ヤン(楊嘉輝、1979年香港生まれ)の映像と音を使ったインスタレーション《音を消した状態#22:音を消したチャイコフスキー交響曲第5番》(2018年)をご紹介します。ヤンは作曲家、サウンド・アーティストで、様々なメディアを通して領域横断的な表現を行い、近年注目を集めています。
本展出品作では、ケルンのフローラ・シンフォニー管弦楽団がピョートル・チャイコフスキー作曲の交響曲を演奏する様子が映し出されています。しかし、弦にテープを巻くなど、演奏した音が響かないように消音(ミュート)されているので、通常は楽音でかき消されてしまう奏者の息づかいや指が楽器を押さえるささやかな音のみが聞こえてきます。奏者が熱演する様子を映し出す映像から想起される音楽と、実際に聞こえてくる音のギャップは、おかしくもあります。また、身体的な動作によって生み出されるガサガサという、普段は聞くことができない音が響く別世界が広がるかのようでもあります。これは、私たちが見聞きしているものの裏には別の真実があるかもしれない、ということを気づかせてくれるのです。
サムソン・ヤン(楊嘉輝)
1979年香港生まれ、同地在住。作曲家、サウンド・アーティスト。2013年米国プリンストン大学で作曲の博士号を取得。第57回ベネチア・ビエンナーレ(2017年)香港代表。第1回シグ賞(香港、M+)受賞(2020年)。