* 姓のアルファベット順
- ビープル
- ケイト・クロフォード、ヴラダン・ヨレル
- ディムート
- 藤倉麻子
- シュウ・ジャウェイ(許家維)
- キム・アヨン
- ルー・ヤン(陸揚)
- 佐藤瞭太郎
- ジャコルビー・サッターホワイト
- ヤコブ・クスク・ステンセン
- アドリアン・ビシャル・ロハス
- アニカ・イ
ビープル
1981年 米国ウィスコンシン州ノースフォンデュラック生まれ、米国サウスカロライナ州チャールストン在住
ビープル(本名:マイク・ウィンクルマン)はウェブで活動するデジタルアーティスト、グラフィックデザイナー、アニメーターであり、政治と社会を風刺する作品を制作している。2007年から毎日デジタル作品を制作し、オンライン投稿するプロジェクト「エブリデイズ」を開始。17年以上にわたり続けられている行為は、多くのデジタルアーティストに影響を与えている。NFT作品《エブリデイズ:最初の5000日》(2021年)がクリスティーズのオークションで記録的な高値で落札されたことで、現代アートで一躍注目を浴びるようになり、デジタルアートとNFTの存在を世界的に知らしめた。《ヒューマン・ワン》(2021年)は回転するビデオ彫刻であり、メタバースで生まれた最初の人間が、変わり続けるデジタル世界を旅する様子を表現している。この等身大の彫刻は、ビープルにとって物質性を伴う初めての作品であり、作品はイメージや形状を含め、アップデートされ続けている。
ケイト・クロフォード、ヴラダン・ヨレル
1975年 シドニー生まれ、ニューヨーク在住
1977年 セルビア、ノビ・サド生まれ、同地およびベルリン在住
ケイト・クロフォードは、AIとその影響に関する研究を国際的にリードする研究者。情報通信技術(ICT)の研究者でアーティスト、SHARE財団の共同設立者のヴラダン・ヨレルと協働し、リサーチとデザイン、科学とアートを融合し、調査を視覚化した《帝国の計算:テクノロジーと権力の系譜 1500-2025年》(2023年)などを制作している。出展作でもある本作は16世紀以降のテクノロジーと権力がいかに絡み合ってきたかを描き出す、全長24メートルの地図である。現代においてテクノロジーを批評したり実装する際に、歴史的・政治的な文脈を長期的な視野で振り返ることなく、最新のスペクタクル体験やデバイスに目を奪われ、近視眼的になる状態を正す必要性を示しているようにも見える。
ディムート
1982年 ベルリン生まれ、ニューヨーク在住
芸術と科学が重なりあう彼女の作品では、実験的なインスタレーションを通してさまざまな真理が掘り下げられる。進行中のプロジェクトでもAI、合成生物学、ヒトと植物の遺伝学、量子・宇宙物理学などの科学者と協働している。本展には人間とマシンに関する彼女の研究が「総合的実体への3つのアプローチ」と題されて展示される。具体的にはAIと人間が対話する《エル・トゥルコ/リビングシアター》、対立する2つのAIマシン同士が議論する《エリス・アップル》、AIが人間の独り言を外在化させる《独り言》で構成され、最新のAIマシンに直面した人間の知能の意味を改めて問う。
藤倉麻子
1992年 埼玉生まれ、茨城在住
仮構の都市の中で、巨大な工業品が生き物のように動き出す、不思議な映像を3DCGで制作している。幼少期を過ごした都市郊外の高速道路やインフラが生み出す、均質化された光景への強い関心が反映された作品は、都市空間を規格化する、目に見えないルールを解き明かすものだ。建築と都市の開発がコンピューターのモデリングに大きく依存するいま、自らの感覚を通して仮想と現実の緊張関係を探求する実践は、現代の都市を巡る新たな風景論を提示できるかもしれない。2025年のベネチア・ビエンナーレ国際建築展の日本館展示に出品作家として参加予定。
シュウ・ジャウェイ(許家維)
1983年 台湾、台中生まれ、台北在住
アーティスト、映像作家、キュレーターとして映画と現代アートの領域を往来する作品を制作しており、各地域の政治や産業の歴史を掘り下げるリサーチは、しばしば地質学的時間スケールにまで及ぶ。本展では、現代のデジタル・テクノロジー製品に不可欠な半導体ウェハ用シリコンが砂浜から採取できることに着想を得て、バーチャルな海辺、水中でのチェロ演奏シーン、台湾でAI専用チップを研究する工業技術研究院の映像などを、生成AIによる音楽とともに構成し、最新テクノロジーを素材レベルから考察する。2024年にアイ・アート&フィルム・プライズを受賞。
キム・アヨン
1979年 ソウル生まれ、同地在住
地政学、神話、テクノロジー、未来的な図像が融合した「スぺキュラティブ・フィクション」と呼ばれる物語をもとに、ビデオ、VR、ゲーム・シミュレーションなどを制作している。出品作《デリバリー・ダンサーズ・スフィア》(2022年)は、コロナ禍で注目された自宅等への配達サービスのため、他者と接触せず、都市における不可視の存在として最短距離、最短時間に挑む女性配達ライダーが主人公である。配達経路を移動する迷宮、フラクタル構造のような軌跡は、異次元へと見る者を誘う。2023年にはアルス・エレクトロニカ賞のニュー・アニメーション・アート部門でゴールデン・ニカ賞(グランプリ)を、2024年には韓国国立アジア文化センターが創設したACCフューチャー・プライズを受賞。
ルー・ヤン(陸揚)
1984年 上海生まれ、同地および東京在住
仏教的な叡智と超越論が、最新テクノロジーと大衆文化の要素を融合しながら表現される映像作品を通して、人間の身体と意識について根源的な問いを投げかける。2022年からは、作家自身のデジタルアバターが仏教世界のさまざまな次元を旅しながら「生と死」について問う映像三部作「DOKU(ドク)」(「人は一人で生まれ、一人で死ぬ」を意味する大乗仏教の言葉「独生独死」を着想源とする)を手掛けている。近年では、2024年にルイ・ヴィトン財団美術館(パリ)、2023年にバーゼル美術館(スイス)、2017年にはクリーブランド現代美術館(米国)などで個展を開催。2022年と2016年のベネチア・ビエンナーレをはじめ多数の国際展に参加。2019年にはBMWアート・ジャーニー賞、2022年にはドイツ銀行グループアーティスト・オブ・ザ・イヤーを受賞。
佐藤瞭太郎
1999年 北海道生まれ、神奈川在住
大学院在学中、ビデオゲームに使われる3Dモデル、テクスチャ、アニメーションなどインターネット上に流通するデータ「アセット」を素材に、ゲームエンジンによる映像制作を始めた。ポストインターネット時代のサンプリングやMAD動画(※1)といったカルチャーの影響があるという。兵士、少女、動物などさまざまなキャラクターが繰り返し登場する不条理な物語は、安部公房などの短編小説やシュルレアリスムの絵画空間を連想させる一方で、現代社会を生きる人間の存在や生命の価値を問うものでもある。本展では記号として存在するアセットのキャラクターたちが、均一化された都市郊外の空間に放たれる新作映像を出品予定。
アニメ作品やドラマ、映画、ゲームなどの著作物を、権利者以外の個人が編集した映像のこと。
ジャコルビー・サッターホワイト
1986年 米国サウスカロライナ州コロンビア生まれ、ニューヨーク在住
アフリカ系アメリカ人たちがあるべき未来を描くアフロ・フューチャリズムや、新しいテクノロジーが、従来のアナログな産業構造下では弱者にある黒人やLGBTQ+をその枠組みから解放し、コミュニティーにもたらす可能性について探る映像作品を制作している。こうした実践の背景には、黒人でクィアである自身のアイデンティティと、独学のアーティストで統合失調症を患っていた母親パトリシア・サッターホワイトの影響もある。本展では仏教における慈悲の瞑想に着想を得て、2023年にメトロポリタン美術館から委嘱された新作《メッター・プレイヤー(慈悲の瞑想)》を発展させ、コレオグラフィ(振付)、ウォールペーパー、ビデオ、アニメーション、音楽が一体化したマルチメディア・インスタレーションで、万華鏡のようなCG世界を見せる予定。
ヤコブ・クスク・ステンセン
1987年 コペンハーゲン生まれ、ベルリン在住
3Dアニメーション、サウンド、デジタル技術を駆使して、見過ごされがちな自然現象に、仮想シミュレーションによって生命を吹き込む没入型のインスタレーションを制作している。本展で紹介する《エフェメラル・レイク(一時湖)》(2024年)は、ドイツのロマン主義画家カスパー・ダーヴィト・フリードリヒに触発され、ハンブルク美術館から委嘱された作品で、映像と音響、光るガラス彫刻で構成される。乾燥した不毛の地に周期的に現れては消える自然現象「一時湖」に着想を得て、カリフォルニア州デス・バレーとモハーベ砂漠でのフィールドワークで作家自ら採取した動植物や風景の写真、3Dスキャン、標本や録音データを組み合わせて仮想の湖とその生態系を創り出している。その光景はリアルタイムに変化しながら、観る者の多様な感覚を呼び覚ます。
アドリアン・ビシャル・ロハス
1980年 アルゼンチン、ロサリオ生まれ、同地在住
長期的な協働制作を通して、荘厳でありながら脆さをはらむ、大規模でサイトスペシフィックなインスタレーションを制作している。彫刻、ドローイング、映像、文学、パフォーマンスを織り交ぜたその実践は、危機に瀕した人類、絶滅寸前の人類、あるいは、人類の絶滅後を探求するものであり、過去、現在、未来が折り重なりながら、多種多様な存在が絡み合う、人新世後の世界を映し出す。本展では、手続き型生成(アルゴリズムの処理による生成)とAIを基盤としたソフトウェア「タイムエンジン」を使用し、作家が「デジタル・エコロジー」と呼ぶ、デジタル上でシミュレーションされた環境をさまざまな条件下でモデリングする。作家自身がデザインした彫刻(または、あらゆる人工物)を観察することで、時間の経過が物質に与えうる影響をデジタルデータとして顕在化させる。
アニカ・イ
1971年 ソウル生まれ、ニューヨーク在住
生物学とテクノロジーの流動的な関係を探索することで、独自のアートを実践してきた。近年のアルゴリズムを用いた、きらめく絵画シリーズは、彼女が長年の研究を通じて蓄積してきたイメージと、自身の初期作品のデータを融合させたものだ。これらのデータは、マシン・ラーニングの生成ネットワークによって処理され、絵画の構図や物質感を形作っている。完成した絵画は反射したり透過したりする複数のレイヤーによって作られ、まるで動くレリーフのような感覚を生み出す。このシリーズは、作品がひとりの制作者によって作られる、あるいは制作した人間に帰属する創造物である、という絵画の伝統的な概念にも問いを投げかけている。