佐藤雅彦+桐山孝司 《計算の庭》2007
展覧会づくりの専門家が考える、現代アートとの上手な向き合い方。鍵となるのは、それぞれの人生と作品との幸せな関係作りのようです。森美術館キュレーターの荒木夏実が「六本木クロッシング」2007年版を通して得た、観衆とアート作品との「交差」の大切さを語ります。
----前回、「六本木クロッシング2007」展で伝えたかったアートの特質として、観客それぞれに作用してくる強さ、というお話をしてもらいました。鑑賞者と作品の出会いも、アートにおける最も基本的な「クロッシング=交差」だと言えますね。
荒木:そこが展覧会の面白いところで、私の場合、突き詰めればそれしか考えていないとも言えます。そして「普通のオーディエンス」の感性は、生半可に美術のことを知っている人よりむしろ鋭い。だからといって、美術館が観衆の趣味趣向をそのまま取り入れる必要はないと考えていますが、特に日本人はファッションもデザインも、美意識や感度が高いのではないか、そんなことを思いました。日本では現代アートの観客についてのマーケティングや開拓は遅れているけど、その潜在能力や可能性は非常に高いものだと感じます。
小粥丈晴(中央)、丸山清人(左)の展示
例えば「六本木クロッシング2007」展で紹介した銭湯の背景画(注:上記画像左)などは、本当はひとりひとりが銭湯で眺めるのがベストなわけです。裸でお風呂につかって、構えずにリラックスしきって鑑賞する。半分あの世にいるような気分で(笑)、湯気の向こうに富士山を眺める至福のとき......それが最高のシチュエーションですよね。
一方この美術館にはここならではの良さがたくさんあります。展望台からの景色を観にきたカップルが、たまたま美術館にも入ってきて、作品をじっと見つめているような光景が度々見られますね。「六本木クロッシング」展をはじめとして、私たちは現代美術を楽しむ人々の裾野を広げたいと強く願っていますから、多くの人にアピールできるこの美術館のシチュエーションはぜひ活かしていきたいです。
そうやって考えていくと、私がキュレーターとして開拓したいと願っているのは、実はオーディエンスにとっての広い意味での「環境」なのかもしれません。私にとっての現代美術は----自分がそれに関わる仕事をしているということを除いても----人生をおくる上でとても役に立ってくれる存在です。それを皆さんにも有益に使ってもらえるにはどうするのが良いかを、常に考えたい。アーティストと観衆の間に立つ者として、私たちの重要な役割はそこにあると思うんです。(終)
「六本木クロッシング2007:未来への脈動」展示風景
2007年10月13日~2008年1月14日
森美術館
撮影:木奥恵三
写真提供:森美術館
<関連リンク>
・連載インタビュー:クロッシングを振り返って(全6回)
第1回 世代やジャンルの「枠組を越える表現」が集った2007年
第2回 「幻想都市の魔力」榎忠/「ユーモア革命」田中偉一郎
第3回 「若手対決」名和晃平+鬼頭健吾/「人形の匠」四谷シモン
第4回 4人のキュレーター:異ジャンル間の「つながり」と「浸透」
第5回 「突き詰める/ごまかさないアート」が観る者を解放する
・「六本木クロッシング2007:未来への脈動」展
・「六本木クロッシング2010展:芸術は可能か?」
会期:2010年3月20日(土)~7月4日(日)