2010年5月24日(月)

スピーディな機械を使って、敢えてスローダウン ~「青山悟×MAMCメンバー」限定フリートーク(後編)


《Glitter Pieces》, 2008-2010

青山悟さんは、旧式の工業用ミシンを使って刺繍の作品《Glitter Pieces》を制作しています。なぜ手縫いでもなく、最新のコンピュータ・ミシンでもなく、"旧式の工業用ミシン"を選んだのでしょうか。そこには、作品のコンセプトに通底するウィリアム・モリスの思想がありました。前回に引き続き、「六本木クロッシング2010展」MAMC(マムシー)ナイトで開催したアーティストと直接話せるフリートーク・イベントから、青山さんとメンバーの会話をご紹介します。

――ミシンを使うと、手縫いではできないことができたり、仕上がりが違ってきたりするんですか?

青山:基本的にミシンは手縫いを速くするためのものだと思うので、本当に根気があってやろうと思えば、手縫いでも同じことができるはずです。ただ、ミシンは目がものすごく細かいんです。だからミシン目の一つが手縫いでの一縫いとなると、たぶん1つつくるのに数年はかかると思います。

――なるほど。作品解説に「ウィリアム・モリスの思想を参照しながら制作している」とあったので、「モリスは確か、工業的な大量生産に対して人間の手仕事を復興させようという考えだったよなあ。それなのに手縫いじゃなくてミシンなのはどうしてだろう」と思ったんです。でも、今みたいな理由を聞いたら、さすがに合理性があるんだなって。

青山:モリスにとって、どうして機械じゃなくて手工業だったかというと、それが"ひとつ前の環境"だからなんです。今現在モリスがいたとして、どこまで戻るかって考えたら、完全な手工業まで戻る必要はないと僕は思ったんです。そこまで戻らなくても、モリスと同じようなことは言えるんじゃないかって。だから機械を使って、ものすごくスローダウンするようなものを作ってるんです。

――確かに今だったら、キャンバスにインクジェットで吹き付けてもできてしまいますもんね。

青山:コンピュータ・ミシンで写真をスキャンして、自動的に縫うこともできますね。実際、野球チームやアニメキャラクターの帽子はそうやって縫われていますから。僕がなぜミシンを使うのかというと、やはりそれが"ひとつ前の環境"だからで、ミシンも最新のものではなくて今では生産されていない旧式の工業用ミシンを使ってます。足踏み式に、一応モーターが付いてる程度のものです。


メンバーからのいろんな質問に答える青山さん

――それでもコンピュータとはぜんぜん違いますよね。人間の仕事になっているわけですもんね。あと、色についても聞いていいですか? 表がカラー、裏が白黒ですけど、白黒と対比させるならフルカラーで再現するという選択もあったと思うのですが、敢えてウォーホルのような配色にしたのはなぜですか?

青山:フルカラーは以前つくったことがあるんですけど、単純に見た目が格好よくなかったんです。それで今回は原色のみでやってみようと。フルカラーの可能性もまだ捨てきってはいないんですけどね。でも、逆に今度は色を縛ってみようかなと思っています。例えば赤一色とか。カラーといっても必ずしもフルカラーでなければいけないわけじゃないですし、一色のほうが"色"というものが強く出る場合もあるんじゃないかと思っているんです。それにカラー対白黒にしたとき、いろんな色があると、色の意味を考えちゃうのが問題だなと思っているので。

――写真に合わせた色付け、ですよね。例えばブルーなら暗いイメージとか。そういう意味を持たせているのかと思ったのですが、そうではないんですね。

青山:ないわけでもなくて、実はカラー・リサーチも一応してるんです。例えばブッシュが大統領を退任するときの写真をモチーフにした作品は、右側が緑、左側が金色になっています。緑には中世の時代、「悪魔」という意味があったらしいんです。金色は確か「栄光」とかいう意味です。なので、悪魔から過去のものになっていくという考えです。

初めの頃はそうやってカラー・セオリーに当てはめていたんですけど、だんだん「あまり意味がないなあ」と感じてきたので、最近はパッと見の印象で選んでいます。

――でも、やっぱりそういう過程があるからおもしろくなっていくんじゃないですか。何も試さないでやるのと、実際に試してからやるのとでは全然違いますよね。一色というのも統一感があって格好いいかも......あ、「格好いい」っていうのが褒め言葉として受けてもらえるかどうか、わかりませんが。

青山:実際、格好よさっていうのは、いつも基準の1つではあります。

――作品を観たとき「きれいだな」って、シンプルなきれいさを感じました。

青山:ありがとうございます。(終)

撮影:木奥恵三

【青山 悟プロフィール】
あおやま・さとる――東京生まれ。アーツ・アンド・クラフツ運動の創始者であり社会主義者でもあったウィリアム・モリスの思想を参照しながら、制作という労働を通してその答えを模索する。主な作品に《NEIL TENANT(PETSHOP BOYS)》(2003年)、《CHRIS LOWE(PETSHOP BOYS)》(2003年)、《東京の朝》(2005年)、《Crowing in the Studio:Overview》(2007年)など。「六本木クロッシング2010展」出品作は《Glitter Pieces》(2008年~)。

※この記事は2010年4月20日に開催した森美術館のメンバー限定イベント「MAMCナイト」のフリートークを編集したものです。

<関連リンク>
・「青山悟×MAMCメンバー」限定フリートーク(前編)
労働とは何か。アート制作という労働を通して考える
メンバーシッププログラムMAMC
「六本木クロッシング2010展:芸術は可能か?」
会期:2010年3月20日(土)~7月4日(日)

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