森美術館キュレーター荒木夏実、撮影:御厨慎一郎
過去開催展の歴史をひも解けば新発見も?今回登場するのは、森美術館キュレーターの荒木夏実。2007年版の「六本木クロッシング展」を手がけました。6回予定の連載初回は、同展に集結した「枠組を越えていく表現」について、「凄み」「過剰さ」などの刺激的なキーワードと共に語ります。
―『六本木クロッシング2007:未来への脈動』展は、2004年の初開催に続く第2回目でしたね。展覧会としてはどのような内容を目指したのでしょうか。
荒木:この回では、「今、見たい日本のアーティスト36組」をキーワードとし、絵画、彫刻、写真、映像などを集めました。「枠組を越える」というのが、六本木クロッシングの根底にある主題のひとつですが、2007年版では、アート、建築、ファッション、デザインといったジャンルごとの作品を単純に集めるのではない企画を目指しました。むしろ個々の作品が、自ずと旧来のジャンルの枠を越えていってしまう----そんな表現者たちを紹介する場になったと思います。つまり、はじめに枠組ありきではなく、むしろ作品自体がこれまでの枠組を自力で越えていく表現に注目したわけです。
吉村芳生《365日の自画像(1988年7月24日~1989年7月23日)、撮影:木奥恵三
その結果、出展アーティストは名和晃平さんや鬼頭健吾さんといった若手注目作家から、すでに他界している立石大河亞さんまで、世代も手法も作風も幅広いものになりました。現代アートの枠に収まらない表現者たちも多く紹介しています。銭湯の壁画を手がけてきた背景画家の丸山清人さんや、ご自身の顔や新聞の見開きを鉛筆で克明に描き続けていた吉村芳生さんがそうです。
―宇川直宏さんのように、アーティストでデザイナーでDJで、文筆家でもあり......という風に、作家自身の中で「クロッシング=交差」を体現している方も参加していましたね。
荒木:西洋的な美術のとらえ方からすると、例えばアートと一緒に工芸やデザインを展示するのは問題だとされたり、逆にそれゆえに野心的だと評価されたりします。ただ、私たち日本人にはそれらが自然にクロスしている感覚もありますよね。そんなふうに無意識に自分の中の交差があって、かつ常識的な感覚を越えて「過剰」な何かを持っている表現者たちがいます。彼らの作品が放つ「凄み」みたいなものを見せられたら----。当時はそのように考えていました。
《第2回(「幻想都市の魔力」榎忠/「ユーモア革命」田中偉一郎)へ続く》
<関連リンク>
・「六本木クロッシング2007:未来への脈動」展
・「六本木クロッシング2010展:芸術は可能か?」
会期:2010年3月20日(土)~7月4日(日)