名和晃平(左)と鬼頭健吾(右)の展示
森美術館を舞台に互いに火花を散らした(?)若手現代美術家たちや、新鮮さと貫禄とを同時に見せつけた異端の表現者たちがいます。「未来への脈動」をスローガンに豊かな表現が溢れた2007年版『六本木クロッシング』展でのそんな出来事を、担当キュレーターの荒木を案内役に回想してみましょう。
----2007年版のサブタイトルは「未来への脈動」でしたね。未来を見つめるという点で、ご自身はじめ当時のキュレーター陣はどのようなことを考えたのでしょう。
荒木:大きな特色のひとつとしては、「未来」と言っても、必ずしも若手アーティストにこだわらなかったことですね。ベテランでも、あるいは過去の人でも、いま観直すことで新鮮な発見があるアーティストがいれば紹介したいと考えました。そういう表現は、現在の文脈でみると以前とはまた違うリアリティが出てくるんです。
例えば、球体関節人形作家の先駆者である四谷シモンさん。ご本人もおっしゃっていましたが、人形作りは多種多様なのにも関わらず、常に「工芸」で一括りにされてしまいがちだそうです。そこで私たちは、色々な世代、色々なスタイルの作家さんと一緒に、四谷さん独特の表現世界や美意識もぜひ紹介できたらと思いました。彼のような人生経験のある作家さんとの仕事は、私たちも学ぶことが多かったですね。
----それとはまた違う形の「交差」として、名和晃平さん、鬼頭健吾さんという若手の現代美術家ふたりの立体作品が、挑発し合うように並ぶエリアも印象的でした。
荒木:彼らについては、あえて対決させてみたいという案がキュレーター陣の中であったんです。ああいう風にふたりの作品が並ぶことはこれまでなかったので。作品が隣り合うだけでなく、どちらも床を真っ白にして、雰囲気としてもう完全に「名和vs鬼頭だね」と(笑)。もちろん事前に本人たちに相談して、それは面白いと言ってくれたので実現しました。
----実際に展覧会が完成して初めて感じたことというのはありますか?
荒木:当たり前ですが、展示ってやってみないとわからないことが多いんです。机の上でいくらプランを練っても、現場でどんな化学反応が起きるかは予測できない。いまお話した名和さんと鬼頭さんの例もそうですね。
四谷シモンの展示
同じく先述した四谷シモンさんの人形作品の隣には、蛍光灯を使ったアートで知られる東恩納裕一さんの展示がありました。設置してみた結果、その強い光が四谷さんの人形をもうっすら照らしている。東恩納さんと私たちが「これはどうしたものか」と心配していると、四谷さんは気にせずおおらかに許容してくださり、ベテラン作家の懐の深さを感じました。予想のつかないことも含めて、結果としては非常に面白いものになったと自分では感じています。私自身がこの展覧会をすごく楽しんでいました。
《第4回4人のキュレーター:異ジャンル間の「つながり」と「浸透」へ続く》
「六本木クロッシング2007:未来への脈動」展示風景
2007年10月13日~2008年1月14日
森美術館
撮影:木奥恵三
写真提供:森美術館
<関連リンク>
・連載インタビュー:クロッシングを振り返って(全6回)
第1回 世代やジャンルの「枠組を越える表現」が集った2007年
第2回 「幻想都市の魔力」榎忠/「ユーモア革命」田中偉一郎
・「六本木クロッシング2007:未来への脈動」展
・「六本木クロッシング2010展:芸術は可能か?」
会期:2010年3月20日(土)~7月4日(日)