2010年5月19日(水)

労働とは何か。アート制作という労働を通して考える ~「青山悟×MAMCメンバー」限定フリートーク(前編)


メンバーと自由に歓談する青山さん 撮影:木奥恵三

「アーティストと直接話がしたい!」というメンバーの声にお応えし、作品を前にアーティストに質問したり感想を伝えたり、メンバーの声にお応えし、作品を前にアーティストに質問したり感想を伝えたり、自由に話せるフリートーク・イベントを先日のMAMC(マムシー)ナイトで開催しました。参加してくれたのは「六本木クロッシング2010展」出展中の青山悟さんと、加藤翼さんと、HITOTZUKI(Kami+Sasu)です。その中から、青山悟さんのトークを中心にリポートします。

困るぐらいの質問がきたら嬉しいですね
トークが始まる前、アーティストには「六本木クロッシング2010展」公式カタログにサインしてもらいました。こちらのカタログはメンバーに抽選でプレゼントする予定です。


サインをする青山さん 撮影:木奥恵三

青山さんのサインは本人いわく、「ごく普通のアルファベットの筆記体」。加藤さんのはフランス人が考えてくれたものだそうで、撮影していたカメラマンが「かっこいいですね」と言うほど。それを見た青山さんは「いいなー。僕はパスポートも全部このサインなんですよ」とちょっとうらやましそうに笑っていました。

リラックスムードの青山さんに「緊張しませんか?」と聞くと、「これまでも(いろいろな展覧会で)アーティストトークはやってきているし、その中で質問も受けてきたから大丈夫。でも今日は丸ごと質問タイムなので、これまでになかったような、回答に困るぐらいの質問がきたら嬉しいですね」と、余裕の表情でした。


3人のサインが入ったカタログ。上からKamiさん、Sasuさん(HITOTZUKI)、加藤さん、青山さん。

不景気になって作品が売れなくなっても"アーティスト"と呼べるのか

青山悟さんの作品《Glitter Pieces》は緻密に縫われた刺繍ですが、一見しただけではその素材はおろか、写真なのか絵なのかもわかりません。やはり「どうやってつくったのか」が気になるメンバーは多いようで、フリートーク開始直後は素材や制作方法に関する質問が続きましたが、だんだんと作品のコンセプトへと話題は移っていきました。メンバーと青山さんの会話をご紹介します

――これは本当に刺繍なんですよね?写真みたいに見えるし、光っているし、不思議。

青山:不思議なことは何もしていなくて、本当にただ縫っているだけなんです。オーガンジーという透明な布の下に写真を置いて、最初にボールペンでアウトラインをとって、あとはひたすら手動のミシンで縫っています。使っているのは黒糸と1、2色のメタリックの糸で、グラデーションになっているところは上糸と下糸の色の組み合わせを変えたりして、微妙なトーンの変化をつけています。

――1つの作品に、どれぐらいの時間がかかるんですか?

青山:ディテール次第なので、ものによって全然違ってきちゃうんですけど......数週間のもあれば、2~3カ月ぐらいのものも。ここにある作品全部で、だいたい1年分ぐらいですね。

――えっ、そんなに!?観ている人は、まさかそんなに時間がかかっているとは考えないんじゃないかと思うんですけど......。

青山:そこだけをアピールしたいわけじゃないので、全然構いません。

――歴史的に重要な写真を選んでいるんですか?

青山:最近のものもありますよ。例えばブッシュが大統領を辞めるときの報道写真とか。ロシアの労働環境についての記事や、「アメリカの時代は終わりだ」という記事からとったものも。イメージは全部「不況」に関係するものを選んでいます。

作品の表と裏は、実際の記事の切り抜きの表と裏です。裏の作品は、表の記事を選んで切り抜いたらたまたまそうなっていたというだけなので、全くの偶然です。だから裏は意味も失われているし、色も失われている(※編注:表はカラー、裏はモノクロ)。そうなると「労働の無駄」以外の何物でもないんだけれど、でもそれって「本当に無駄なの?もうちょっと労働について考えたほうがいいんじゃないの?」という作品です。

実は、裏は「まったく意味をなしてない」と言いながら、意味をなしているように見える作品もあります。例えば「不況時代のファッション」という記事をモチーフにした作品の裏は、日本の高級マンションの広告です。これは2つで意味をなしているという見方もできますが、裏は選んだつもりはないので偶然です。

――この中で一番気に入っているというか、思い入れのある作品はどれですか?

青山:コンセプトを一番よく表しているのは、これですね。


《Glitter Pieces #1》, 2008

19世紀にイギリスで興ったアーツ・アンド・クラフツ運動の創始者で、社会主義者でもあったウィリアム・モリスが社会主義同盟をつくったときの記念写真をモチーフにした作品です。彼がしたことや語ったことを、今、こういう不況の時代にもう一度考えてみるのはおもしろいなと思って。

展示室入り口の上にある文字の作品は、ウィリアム・モリスの筆跡で「労働の無駄は終わるだろう(The waste of labour power would come to an end.)」って書いてあるんですけど、その言葉にむちゃくちゃ労働の無駄を費やしている、という作品(笑)。でも、それが全てのコンセプトの根底にあるんです。「こんなに働いているのに、なんで生活できないの?」って、多くのアーティストもそう思っているし、それってアートに限らず今大きな社会問題じゃないですか。あと、「不景気になって作品が売れなくなっても社会的に"アーティスト"と呼べるのか」とか、そういう考えです。

(次回「スピーディな機械を使って、敢えてスローダウン」に続きます《5月24日掲載予定》)

【青山 悟プロフィール】
あおやま・さとる――東京生まれ。アーツ・アンド・クラフツ運動の創始者であり社会主義者でもあったウィリアム・モリスの思想を参照しながら、制作という労働を通してその答えを模索する。主な作品に《NEIL TENANT(PETSHOP BOYS)》(2003年)、《CHRIS LOWE(PETSHOP BOYS)》(2003年)、《東京の朝》(2005年)、《Crowing in the Studio:Overview》(2007年)など。「六本木クロッシング2010展」出品作は《Glitter Pieces》(2008年~)。

※この記事は2010年4月20日に開催した森美術館のメンバー限定イベント「MAMCナイト」のフリートークを編集したものです。

<関連リンク>
メンバーシップ・プログラムMAMC
HITOTZUKIさん展示設営風景-森美術館flickr(フリッカー)
六本木高校で構造物を引き倒す:加藤翼さん 《T》制作風景
「六本木クロッシング2010展:芸術は可能か?」
 会期:2010年3月20日(土)~7月4日(日)

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