原真一《White Summer-お耳のチャ・チャ・チャ》2003-06
美術評論、アートディレクションなど、異なる領域で活躍する人々が共にアート展を作り上げる。森美術館はそんな試みにも意欲的です。2007年の「六本木クロッシング」展でも、天野一夫さん、椹木野衣さん、佐藤直樹さんという個性派キュレーターのコラボがありました。彼らと展覧会づくりを共にした森美術館キュレーター・荒木夏実から見た当時の様子と、彼女自身のアート観に迫ります。
----六本木クロッシングでは毎回、展覧会作りをするキュレーターが複数人集まり、協力し合う形をとっていますね。2007年のメンバーは合計4名。ほかの3名はどのように決まったのでしょう?
荒木:天野一夫さん(美術評論家、現・豊田市美術館チーフキュレーター)は、この展覧会の切り口を考えるのに良い引き出しを沢山お持ちなのではと思い、お願いしました。日本各地のアートシーンをよくご存知で、現代美術に限らず古いものから博物学的なものなど、非常に幅広く見ていらっしゃる方です。
岩崎貴宏《Reflection Model》2001
美術評論家の椹木野衣さんは、そのお仕事ぶりから、力強くディープな作家たちを評価している印象があり、お声掛けしました。私は自分が日本のアートを紹介するなら、その儚さや弱々しさに魅力が宿るものより、ちょっと骨太なものを見せたいという想いがありました。その点で、椹木さんの視点にとても興味があったんですね。
デザイン会社「ASYL」を率いるアートディレクターの佐藤直樹さんは、椹木さんの紹介で参加をお願いすることになりました。理由としてはまず、デザイン界の動きをよく知る方にも加わって欲しかったことがひとつ。加えて佐藤さんは、東京の東側エリアを活性化するプロジェクト『CET』で、展覧会やイベントの企画もなさっています。そういうクロスボーダー的な活動をしている点でも興味がありました。
できやよいの展示
----ご自身はこれまで森美術館では、アートの物語性に焦点を当てた「ストーリーテラーズ:アートが紡ぐ物語」展(2005年)などの展覧会を企画していますね。文学的なバックグランドもあるのでしょうか?
荒木:私は大学では英文科を専攻し、卒論はヴィクトリア朝のノンセンス文学がテーマでした。『不思議の国のアリス』でも知られるルイス・キャロルや、詩人のエドワード・リアなどに興味を持ったんです。ちなみにキャロルは数学者でもありました。イギリス文学史にはそういうジャンル間の浸透のような傾向が、しばしば登場してきます。
----そういう世界を学ぶ中で、自然とアートにも親しんでいったのですか?
荒木:美術の世界でも、ラファエル前派(19 世紀中頃、ヴィクトリア朝のイギリスで活動した美術家、批評家から成るグループ)などは同時代の文学と密接に関わっていました。私もそういう多ジャンル間の「つながり」に触発されて、美術館にも行くようになったんです。文学的なもの、物語的なものから、アートにも興味が向いていった。それこそ「クロッシング」なんですけどね。
----それでは六本木クロッシングは、ぴったりのお仕事だった?
荒木:どうでしょうか(笑)。ただ、私は以前から「これはデザインジャンル」「これはアート」と過度にわかりやすくジャンル分けすることに違和感を感じていました。それとは別のやり方でも、豊かな物語を与えてくれる表現に巡り会えるのでは、という想いはずっとありますね。
《第5回「突き詰める/ごまかさないアート」が観る者を解放するへ続く》
「六本木クロッシング2007:未来への脈動」展示風景
2007年10月13日~2008年1月14日
森美術館
撮影:木奥恵三
写真提供:森美術館
<関連リンク>
・連載インタビュー:クロッシングを振り返って(全6回)
第1回 世代やジャンルの「枠組を越える表現」が集った2007年
第2回 「幻想都市の魔力」榎忠/「ユーモア革命」田中偉一郎
第3回 「若手対決」名和晃平+鬼頭健吾/「人形の匠」四谷シモン
・「六本木クロッシング2007:未来への脈動」展
・「六本木クロッシング2010展:芸術は可能か?」
会期:2010年3月20日(土)~7月4日(日)