コロナ禍を経て、浮かび上がる社会像を考察する
本展のキュレーター4人のコロナ禍を起点とする議論により、2022年のいま、考察すべき3つのトピックで展覧会を構成します。
1. 新たな視点で身近な事象や生活環境を考える
コロナ禍により、私たちは身近な事象や生活環境をより強く意識するようになりました。これは、東日本大震災を経た日本で自然や環境について関心が高まったことの延長線上にあると言えるでしょう。そんな意識を通じて、私たちは未来を考えることが求められています。
本展では、AKI INOMATAによるビーバーにかじられた木材を基に制作された立体作品シリーズ、コロナ禍での生活環境の変化を起点に奇想天外な未来を志向する市原えつこ、身近な環境を変容させるインスタレーションを発表する玉山拓郎、青木野枝による自然現象に想を得た大型立体作品、竹内公太が福島県の放射能汚染による立入制限区域で撮影した写真を含むインスタレーションなどを紹介します。
2. さまざまな隣人と共に生きる
いま、遠隔のコミュニケーションにより働き方の選択肢が増えたり、多拠点生活が可能になっています。このようにコロナ禍がもたらした変化は、個々人の属性や家庭環境、社会的状況によりさまざまであり、多様な隣人がいることに気づかされました。
本展では、変わりゆく世界を見つめながら、さまざまな隣人たちを描くO JUNの絵画、失踪していた伯母と再会し、その後の姿を撮影し続けた金川晋吾によるポートレート写真、キュンチョメによるトランスジェンダーを主題とした映像作品などを紹介します。「ダイバーシティ」や「LGBTQ+」という言葉を意識した取り組みが加速度的に増える一方で、そうした言葉の影に隠されてしまうもっと見えにくい差異も含めて、さまざまな人たちが共に暮らす今日の社会の姿を考察します。
3. 日本の中の多文化性に光をあてる
コロナ禍で海外からの人流が途絶えたにもかかわらず、海外にルーツを持ちつつ日本で生活している人たちの姿を日常的に目にします。インバウンド・ブームの陰で見えにくくなっていた、この国には多様な民族が共生しているという事実がより見えやすくなったといえるでしょう。顧みれば現在の日本は、アイヌや沖縄の人々、中国系、コリア系といったさまざまな民族が、政治的変化や複雑な歴史を経て共に暮らす場となっています。昨今、世界中で民族・文化的に周縁とされてきたものに対する再評価の動きがあるなかで、連綿と続いてきた日本の中の文化的多様性に光をあて、新しい時代を共に考える必然性があるのではないでしょうか?
本展では、池田宏によるアイヌの人々を主題とした映像インスタレーション、住み慣れた場所を離れる最後の時間を撮影した石内都の写真作品、海路による人々の往来を主題にテキスタイルで物語を紡ぎ出す呉夏枝や潘逸舟による移住・移転をテーマにした作品、石垣克子と伊波リンダという沖縄出身のアーティストによる作品などを紹介します。