ナンシー・ホルト(1938年米国マサチューセッツ州ウースター生まれ、2014年ニューヨークにて没)とロバート・スミッソン(1938年米国ニュージャージー州パサイク生まれ、1973年テキサス州アマリロにて没)は、米国のランド・アートをけん引したアーティストです。この美術の動向は、1960年代に起こり、しばしば都市から離れた自然環境の中など美術館に代わる場所で作品を制作することを目指したものですが、いま振り返ってみると、議論を引き起こしただけでなく先見性を持っていたといえるでしょう。ホルトは、半世紀以上にわたる活動の中で、ランド・アートとコンセプチュアル・アートの要素と、インスタレーションや映像など当時の新しい手法を進んで作品に取り入れ、美術の領域を広げました。また、ホルトの夫であるスミッソンは、美術以外の多様な分野―地図学、地質学、建築や遺跡、先史時代、哲学、大衆文化―を独学し、それらの要素を表現に取り込みました。いまもなお彼の作品は、あらゆる世代の芸術家や思想家たちを刺激し続け、近年ではホルトの作品も同様の影響を与え始めています。
本プログラムでは、ホルトとスミッソンが、ユタ州の砂漠にそれぞれ残した2つの重要なランド・アートにあわせて制作した映像作品2点、および2人の共作による映像作品1点を紹介します。ひとつは、スミッソンの画期的な代表作である《スパイラル・ジェッティ》(1970年)。同名の映像作品はホルトの編集協力を得て完成しています。もうひとつのホルトの象徴的な作品《サン・トンネルズ》(1973-1976年)は、スミッソンが飛行機事故で他界後、ホルトが制作しました。いずれの作品も大地とそこに刻まれた歴史から、宇宙における地球にまで関わるものです。一方の《湿地》(1971年)は、2人が共同制作した実験的映像作品のひとつであり、激動の時代を決定づけたジェンダーロールについても触れています。
2人のアーティストが個別に、時には共同で生み出した作品群は、地球やランドスケープとわたしたちとの関係性の再考を促しています。加えて、今日の気候危機が、これらのランド・アートにまで影響を及ぼしているなか、彼らの思想は、さらなる深みと緊急性を帯びているといえるでしょう。
上映作品
1. ロバート・スミッソン《スパイラル・ジェッティ》 1970年 35分
2. ナンシー・ホルト、ロバート・スミッソン《湿地》 1971年 6分
3. ナンシー・ホルト《サン・トンネルズ》 1978年 26分31秒
当プログラムは全体約70分で、下記の時間より上映を開始いたします。
10:00、11:10、12:20、13:30、14:40、15:50、17:00、18:10、19:20、20:30
(祝日を除く火曜日は17:00閉館です。最終上映回は15:50です。)
「MAMスクリーン017」の上映について
企画展・プログラム等実施のため、以下の日時は作品をご覧いただけません。あらかじめご了承ください。
※日時が追加される場合もあります。ご留意ください。
タイムスケジュール
・3月15日(水)17:00~22:00
・3月16日(木)10:00~12:20
・3月17日(金)10:00~13:30
・3月18日(土)終日
ナンシー・ホルト
1938年米国マサチューセッツ州ウースター生まれ、2014年ニューヨークにて没。ホルトは生物学専攻でタフツ大学を卒業後、ニューヨークに移り、1966年から作品制作を開始。コンクリート・ポエトリーに始まり、音声や写真、フィルム、ビデオ、室内サイズのインスタレーションなどを手掛けた。《サン・トンネルズ》(1973-1976年、米国ユタ州グレートベイスン砂漠)などの大規模なランド・アートや公共彫刻、インスタレーションで知られる。作品はニューヨーク近代美術館、ディア芸術財団を含む世界の主要なコレクションに収蔵されている。主な個展に、ビルド・ムセアット(2022年、スウェーデン)とバルセロナ現代美術館(2023年開催予定、スペイン)の回顧展「Inside Outside」、ディア芸術財団(2018年、ニューヨーク)、ウィットワース美術館(2013年、マンチェスター)、現代美術ギャラリー(2013年、バンクーバー)など。2010年には回顧展「Nancy Holt: Sightlines」がコロンビア大学ウォラック・アート・ギャラリー(ニューヨーク)から巡回した。
ロバート・スミッソン
1938年米国ニュージャージー州パサイック生まれ、1973年テキサス州アマリロにて没。芸術の可能性と領域を新たに設定したスミッソンの作品は、シカゴ美術館、ニューヨーク近代美術館、東京国立近代美術館、パリのポンピドゥー・センター、ディア芸術財団など世界各地の多数の美術館に収蔵されている。代表作に大規模なランド・アート《スパイラル・ジェッティ》(1970年、米国ユタ州グレートソルト湖)など。近年の主な個展開催館に、ローマ現代アート美術館(2022年)、クイーンズランド大学美術館(2018年、オーストラリア、ブリスベン)、モントクレア美術館(2014年、米国ニュージャージー州)、ダラス美術館(2013年、米国)、レイキャビク美術館(2012年、アイスランド)など。2004年ロサンゼルス現代美術館で開催された重要な回顧展は、ダラス美術館を経て、2005年ニューヨークのホイットニー美術館に巡回した。