「瞑想(メディテーション)」の語源はラテン語の「メディタリ」といわれ、想うこと、熟慮すること、癒すことを意味します。本展「自然を瞑想する」では、心を静めて意識を集中させ、瞑想するように自然と対峙することで見出された抽象表現を紹介します。本展で紹介するアーティストたちは、自然をその姿のまま描写するのではなく、哲学や精神世界、あるいは、自身の想像を映しだす鏡として見つめることで、豊かな表現を創り出しています。
久門剛史の《クォオンタイズーチェンマイでの対話》(2018年)は、タイ北部チェンマイのジャングルに滞在した経験をもとにした作品です。熱帯のジャングルに広がる夜の暗闇の深さと、そこで感じた得体の知れない「気配」を、現地で収録した虫の音と焚火の炎をイメージした立体で表現しています。
ポー・ポーは、仏教の思想体系であるアビダルマを表現する四大要素の「地」「水」「火」「風」、それらの要素を存在させる「空」を絵画で表現しています。自然界の要素と象徴的に対応している複雑な仏教思想を、幾何学形態を組み合わせたミニマルな抽象絵画で描いています。
梅津庸一が目の前に広がる「湖を包み込む雄大な自然、その息吹、湖水の深さ、水中の様子を想像しながら描いた」という《湖心》(2022年)では、景色が抽象的な情景として表現されています。
自然と対峙し、その本質的な要素を導き出した豊かな表現は、抽象的であるからこそ多様な解釈を可能にしています。地球環境が危機的状況にある現代において、これらの作品は、私たち自身が自然を見つめ直すきっかけや、そのヒントを示してくれるでしょう。