来日中のディン・Q・レは、ある日、軍服を着たひとりの日本人男性に出会いました。その出会いから、あらたな作品が生まれました。本ブログ連載第5回では、新作《人生は演じること》について解説します。
《人生は演じること》
北ベトナム兵の軍服に身を包み、草むらに潜む男性。別のシーンでは自室でアメリカ兵や日本兵の軍服に次々と着替え、勤め先ではバーテンダーの制服に着替えます。
レは、ミリタリーグッズを集めるこの男性が、リエナクトメントと呼ばれる戦争の再演を趣味とし、ベトナム戦争の再演を行っていることを知って興味をもちます。多様な人々の視点からベトナム戦争を捉え直す作品を制作してきたレは、40年以上前にベトナムで起こった戦争を、今の日本人がどのように解釈しているのかに関心を抱いたのです。
フィクションとリアリティーが入り混じる奇妙なシチュエーションの中、ベトナム戦争や第二次世界大戦の日本軍について語る男性。彼の姿を通して、70年前の戦争と現在の日本、そしてこれからの日本について考えさせられます。
文:荒木夏実(森美術館キュレーター)
《人生は演じること》
2015年
シングルチャンネル・ビデオ、カラー、サウンド、軍服
26分
Commissioned by Mori Art Museum, Tokyo, 2015
<関連リンク>
・ディン・Q・レ展:明日への記憶
会期:2015年7月25日(土)-2015年10月12日(月)
・語られることのなかった物語~ディン・Q・レ作品紹介
(1)「フォト・ウィービング」シリーズ
(2)《農民とヘリコプター》
(3)《抹消》
(4)《南シナ海ピシュクン》
(5)《人生は演じること》
(6)《光と信念:ベトナム戦争の日々のスケッチ》