2015年9月 7日(月)

パブリックプログラム(教育普及活動)のアクティビティ紹介
学校と美術館のためのプログラム:子どもたちとどのように学んでいくか?

「学校と美術館のためのプログラム」は昨年2014年、森美術館で開催された、子どもをめぐる状況に焦点を当てた展覧会「ゴー・ビトゥイーンズ展:こどもを通して見る世界」の関連プログラムとして始まりました。公立、私立、小中高、コミュニティスクールなどの先生、教育雑誌の出版に関わっていた方など、様々な方にご参加いただき、学校と美術館がお互いに情報交換しながら、どのように子どもたちと一緒に学んでいくことができるかを考える少人数制のディスカッションプログラムです。今回は「ディン・Q・レ展:明日への記憶」について、意見交換を行いました。

「ディン・Q・レ展」では、戦争や記憶、イメージなどについての作品が多く展示されています。まずはそれぞれの先生による展覧会の感想、学校での美術、歴史教育などについて少人数のグループに分かれてディスカッションを行いました。20世紀以降に起こった戦争は、当然ながら主に社会科の授業で扱われています。そこで他の先生から「社会科の教科書からはみ出してしまうものもあるんだよ、ということを教えられるのも美術教育の可能性」という意見が。ディン・Q・レもまさにそういったことを試みているように思います。他の参加者の方の意見で非常に印象的だったのは、「人間は誰しも暴力性を抱えている。ただ単純に暴力はダメというだけでは意味がない。例えば、子どもたちの描く絵の中に暴力的な表現が登場したとき、それを大人がどのように受け止めるかを考える必要がある」というものでした。ディン・Q・レの作品においても、これは良い、悪い、戦争反対などの一方的なメッセージはありません。ディン・Q・レはただありのままの、そしてあまり注目されてこなかった事実を観客に提示するのです。

全体のディスカッションでは、現在の日本の教育は百点主義、テスト主義になってしまっていて、あらかじめ用意された答えのみを求める傾向にあるのではないか、生徒たちが子供っぽくなってきている、またリアリティのない感情を持ちやすいのではないかという指摘がありました。しかし、そうではない教育をしようと頑張っている多くの先生方がいることも忘れないでほしいという意見に、皆さん大きく頷いていました。また、特に都心の学校では国際化が進み、様々な国や地域をバックグラウンドに持つ生徒たちが増え、クラス内の友達同士でお互いの国のことを学ぶなど、子どもたち同士の交流の中から「多様性」への理解が進んでいるという、なんとも頼もしいお話も伺うことができました。

過去をどのように受け止め、それを次の世代に伝えていくかということや、多様な価値観を認め合うことは、学校や美術館だけでなく、私たちが日常の生活を通じて考えていかなければならない問題です。「学校と美術館のためのプログラム」では、普段あまり交流する機会のない先生方とのお話の中で、考えるヒント、きっかけをたくさんいただきました。これからも学校と美術館の間で、より密接で率直な話し合いを続けていきたいと思います。

文:熊倉晴子(森美術館アシスタント・キュレーター)
撮影:御厨慎一郎
 

<関連リンク>

「ディン・Q・レ展:明日への記憶」
会期:2015年7月25日(土)-2015年10月12日(月)

パブリックプログラム(教育普及活動)のアクティビティ紹介
学校プログラム:小学校4年生の鑑賞授業、合言葉は「わからないもの」に会いに行こう!

パブリックプログラム(教育普及活動)のアクティビティ紹介
先生のためのツアー:「イ・ブル展」をどう鑑賞授業に生かすか?

カテゴリー:03.活動レポート
森美術館公式ブログは、森美術館公式ウェブサイトの利用条件に準じます。