ブログ連載第2回では、森美術館「ディン・Q・レ展:明日への記憶」の展示のなかでもとりわけダイナミックなインスタレーションが印象的な《農民とヘリコプター》を取り上げます。ディン・Q・レが国際舞台で活躍するきっかけとなった作品です。
《農民とヘリコプター》
ベトナム戦争とヘリコプター。皆さんはどんなイメージを思い浮かべますか?ハリウッド映画などを通して、アメリカ軍のヘリコプターが、地上の人々を攻撃するさまを記憶している人も多いことでしょう。
しかし、そんなヘリコプターに魅了されてしまったベトナム人がいます。独学の技術者トラン・クォック・ハイは、農作業や人命救助を目的としたヘリコプターの開発に着手。その手作りのヘリコプターが、実際に展覧会場に展示されています。ビデオ映像には、情熱的に語るハイさんの姿とともに、ベトナム戦争中に敵のヘリコプターに遭遇した思い出について話すベトナムの人々が映し出されます。
アメリカからの情報が圧倒的に多いベトナム戦争について、「ベトナム人自身の声を届けたい」と語るアーティストの願いが伝わってくる作品です。
文:荒木夏実(森美術館キュレーター)
《農民とヘリコプター》
2006年
3チャンネル・ビデオ、カラー、サウンド、手作りの実寸大ヘリコプター
250×1070×350cm、15分
Collaborating artists: Tran Quoc Hai, Le Van Danh, Phu-Nam Thuc Ha, Tuan Andrew Nguyen
Commissioned by Queensland Gallery of Modern Art, Australia
展示風景:「ディン・Q・レ:明日への記憶」森美術館、2015年
撮影:永禮 賢
<関連リンク>
・ディン・Q・レ展:明日への記憶
会期:2015年7月25日(土)-2015年10月12日(月)
・語られることのなかった物語~ディン・Q・レ作品紹介
(1)「フォト・ウィービング」シリーズ
(2)《農民とヘリコプター》
(3)《抹消》
(4)《南シナ海ピシュクン》
(5)《人生は演じること》
(6)《光と信念:ベトナム戦争の日々のスケッチ》