会田誠をよく知る5人の方々に聞いた天才美術家の魅力。『HILLS LIFE』最新号(2013年1月1日発行)の特集をご紹介している当連載の最終回は、「会田誠展」カタログにも論考を寄せていただいている美術史家の山下裕二氏です。
山下裕二氏にとって「会田誠とは何者ですか?」
「会田誠は、日本美術史上、20世紀から21世紀にかけての、最大の存在。この展覧会を観ずして、日本の美術を語るなかれ」
山下裕二
美術史家。明治学院大学教授。専門は室町の水墨画だが、縄文から現代美術まで、日本美術史を細心かつ大胆に読み解く。著書多数。監修した『白隠・禅画に込めたメッセージ』展開催中。
自らを「熱狂的な会田ファン」という山下裕二さん。15年ほど前に、《紐育空爆之図(にゅうようくくうばくのず 戦争画RETURNS)》を観て以来、会田誠の作品は欠かさず観てきた。「新作《電柱、カラス、その他》には久しぶりに戦慄しましたね。本当にすごい作品。100年後には国宝になりますよ。電信柱が連なる構成は長谷川等伯の《松林図》を参照して、松の枝振りをちぎれて垂れ下がった電線で再現したり、見事です。菱田春草の《落葉》も下敷きにしていますね。そしてほとんどモノクロームの色彩の中で、カラスがくわえているちぎれた指、目玉や内臓にだけ、赤が効果的に使われている。彼ならではのモチーフ、セーラー服の襟も忍ばせて。震災後の光景を意識したものでしょう。いやあ......、久しぶりに唸ったなあ」
― 日本美術史上の名画の引用と見立て、しかもひねってある。高度ですね。
「彼の作品は常に、1回半ヒネリとか、2回半ヒネリ。それをすべてわかる人はそうそうはいない。《紐育空爆之図(にゅうようくくうばくのず)》を観た時に、洛中洛外図に加山又造、地獄草紙の炎、ホログラムペーパーは螺鈿、チープなビールケースに載せる重いテーマ。おそらく誰よりも高度なレベルでこの作品を理解できている自分、に優越感を感じて嬉しかったわけ(笑)。
でももちろん、初めて見る人だって作品のすごさにびっくりしますよ。たとえば松林図の見立てだということを知らなくてもね。そこから少しずつわかっていくとさらにおもしろくなる。各人各様の入り方があっていいと思います。今回、ひとつだけ苦言を呈するなら、よくできすぎてるね。もっとカオスで、暴れてる部屋があってもいい」
― やはり天才、ですか?
「いや、すごい努力家ですよ。実は求道者的な人。天才じゃなくて、すさまじい努力の果てにたどり着いた境地だと思う。めちゃくちゃ頭がいいしね。間違いなく、日本美術史上、20世紀から21世紀にかけての、最大の存在でしょう。この展覧会を観ずして、日本の美術を語るなかれ。断言できますね」
《電柱、カラス、その他》
2012年
撮影:渡邉修
Courtesy: Mizuma Art Gallery
■『HILLS LIFE』 配布場所
今回の記事が掲載された『HILLS LIFE』は、六本木ヒルズ、表参道ヒルズ、アークヒルズ、愛宕グリーンヒルズに設置のラックにて無料配布中。
WEBサイトでも閲覧可能です。
http://www.roppongihills.com/hillslife/
<関連リンク>
・会田誠とは何者か?"天才"の正体を探る!
第1回 大宮エリー 編
第2回 辛酸なめ子 編
第3回 ホンマタカシ 編
第4回 岩渕貞哉 編
第5回 山下裕二 編
・「会田誠展:天才でごめんなさい」
2012年11月17日(土)-2013年3月31日(日)
・Web Magazine ハニカム
「MAKOTO AIDA:初の大規模個展を控えた、美術家・会田誠の挑戦」