2011年3月 3日(木)

作品を通してオーディエンスと繋がっていくアーティストたち 公開セッション『日本、現代美術の可能性』(1)

日本の現代美術を牽引する世代として注目されるアーティスト、高嶺格、曽根裕、小谷元彦。「コンセプチュアルかつ視覚的に面白い」という共通の特徴を持つこの3人の展覧会が現在、東京オペラシティ アートギャラリー、横浜美術館、森美術館で同時期に開催されています。そこで1月23日(日)、3館のキュレーター(東京オペラシティ アートギャラリー チーフ・キュレーター 堀元彰さん、横浜美術館 学芸員 木村絵理子さん、森美術館 キュレーター 荒木夏実)が集まり、美術館と日本の現代美術の可能性を探る公開セッションが行われました。これから7回にわたって、その模様をお届けします。


左より、荒木夏実(キュレーター、森美術館)、掘元彰さん(東京オペラシティ アートギャラリー チーフ・キュレーター)、木村絵理子さん(横浜美術館 学芸員)

荒木:今回は、美術館のキュレーターという立場で現代美術をどのように解釈し、見せていくのか、どのように盛り上げていくことができるのかを考え、各館での工夫などについて意見交換したいと思っています。

東京オペラシティ アートギャラリーで展覧会を開催中の曽根裕さんは、1996年に私がまだ学芸員としてホヤホヤのころ、小規模の場所ではあったのですが展覧会をさせていただいたので、すごく感慨深いものがあります。曽根さんは、今の現代美術の作家のなかで重要な一人だと思っています。

高嶺格さんにしてもそうですし、今回3人の作家の特徴は、それぞれに制作スタイルも違うし、目標も違う作家だとは思うのですが、非常にコンセプチュアルであることは言えると思います。日本の作家の1つの傾向として、とてもパーソナルなもの、日常のささやかなこと、ひそやかなことをコツコツと表現していくというタイプの作家が多い中で、どちらかというと強い問題意識を抱いている作家たちだと思います。つくるとは、見ることとは何か、社会の中でコミュニケーションをもつというのはどういうことなのかという問題提起をしている作家なのではないでしょうか。だからこそ、作品を通してオーディエンスとつながっていく部分が多いのではないかと思ったのです。堀さんはどう思われますか。

堀:そうですね、3人ともコンセプチュアルな作家だと思います。曽根さんに関して言うと、作品は大理石の彫刻や、バナナの木を模した立体作品ですが、彼は今ロスに住んでいて、ニューヨークのギャラリーを主に発表の場所にしています。作品はロスのほかに中国で地元の職人とつくったり、メキシコで地元のアーティストとつくったりということで、単にロスでつくってニューヨークで発表するのではなく、いろいろな国、特にアートの可能性を持っている新しい国で、アートとは全く関係ない人たちと作品をつくったりしながら、それをまたアートの世界に還元しています。制作から発表、そして売れることも踏まえて、かなり恣意的に作品をつくっているということはあると思うのですね。

荒木:そうですね。実は曽根さんは一見そう見えなくても、きわめてにポリティカルなことを扱っていると思いますね。風景とは何か、そもそも風景といった途端に、そこに政治性が生じるわけで、さらには大理石の彫刻から連想されるようなモニュメントの意味、歴史や美術の決まり、それから都市それ自体ももちろんそうです。マンハッタンなどは、ドキッとする造形だと思うのですよね。けれども、その政治性を掲示するだけでなく、抒情性、詩的なものとのせめぎ合い、そのギリギリのところで作品をフォルム化するというところがすごいなと思いますね。

曽根さんの作品は、私はドキドキしますね、ハラハラするというか。《ナイト・バス》や、《バースデイ・パーティ》など悪夢のような映像ですよね。ずっとだれかがお祝いをしているわけですよ、「お誕生日おめでとう」「お誕生日おめでとう」と。お誕生日は365日あり、たった1日、ある人の誕生を祝う日という決まりがあるわけですけれども、曽根さんはその決まりを突き破るようにして、ずっと祝い続ける。「僕の誕生日なんだ」というと、みんな「おめでとう」と言わざるを得ない状況になるわけですよね。もちろん、ハッピーな雰囲気がそこには醸し出されるのですが、それが延々と続いている。そして半ば強制的に他人を巻き込んでいく。それは単なる楽しいコミュニケーションではなくて、「つくるとはどういうことか」、「他者とはだれか」、「自己とはどこにあるのか」という問題を常に考えさせるような作品だと思います。
 

<関連リンク>

・公開セッション『日本、現代美術の可能性』
第1回 作品を通してオーディエンスと繋がっていくアーティストたち
第2回 現代美術とは、生身の作家と一緒に仕事をすること
第3回 展覧会づくりは、作家と観客のはざまに立ったせめぎ合い
第4回 アーティストから、現代美術の考え方を学んだ
第5回 展覧会の企画は、"博打"のような感じではじまる
第6回 面白い展覧会づくりのために、自主規制を突き崩す!
第7回 美術館が連携して日本のアートシーンを盛り上げていきたい

「曽根裕展 Perfect Moment」
 東京オペラシティ アートギャラリー
 会期:2011年1月15日(土)~3月27日(日)

「高嶺格:とおくてよくみえない」
 横浜美術館
 会期:2011年1月21日(金)~3月20日(日)

「小谷元彦展:幽体の知覚」
 会期:2010年11月27日(土)~2011年2月27日(日)

カテゴリー:01.MAMオピニオン
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