2011年3月17日(木)

美術館が連携して日本のアートシーンを盛り上げていきたい 公開セッション「日本、現代美術の可能性」(7)

様々な難しい制約がある中で、現代美術を紹介していく意義とは?東京オペラシティ アートギャラリー、横浜美術館、森美術館の3館のキュレーターによる鼎談レポートも今回が最終回です。それぞれの美術館、キュレーターの立場からの思いが語られました。


曽根裕《リトル・マンハッタン》 2010年、大理石
Courtesy of the Artist and David Zwirner, New York
photo© KIOKU Keizo

堀:東京オペラシティ アートギャラリーの「曽根裕展」に関して言うと、日本で9年ぶりの展覧会ということもあり、作家本人も難しいタイプの作家なのでよく実現できたなと、我ながらちょっと感慨深いところもあります。

日本の美術館で、個展として取り上げていい作家はまだまだいると思います。今回の「曽根裕展」は当ギャラリーの単独ですが、「小谷元彦展」は巡回されますし、高嶺格さんの展覧会「とおくてよくみえない」も巡回されますし、もうちょっと日本の美術館で、現代美術の展覧会が地方巡回できたらいいと思います。海外では結構、巡回がありますが、日本では現代作家の個展の巡回、特に比較的若い世代の作家の巡回はなかなか難しい、例がないことですね。

あとは、今回の3館の連携のような形で、時期や会期をしっかりと組んで現代作家の展覧会を同じ時期に開催し、東京のアートシーン、日本のアートシーンを盛り上げていけるようなことができればいいと思います。

荒木:木村さんはどうでしょうか。

木村:やはり堀さんがおっしゃっていたように、1つの美術館でやれることの限界は、本当に大きいと思います。高嶺さんの展覧会は、一つの個展として完結したものではありますが、同時に森美術館や東京オペラシティ アートギャラリーで開かれている展覧会と合わせて見ることで、また違って見えてくるのではないかと思います。巡回することもそうですが、美術館同士の連携をもっとやっていくべきだろうと思いますね。

あと、特に海外から来られた方に対してもそうだと思います。「日本には今一体何があるのか」ということを、日本でちゃんと紹介するべきだと思います。海外の最先端のものや貴重なものを紹介することも重要ですが、それと同時に、バランスをとりつつ、日本のものを日本から発信していくことをすべきだと、美術館に勤める者として思いますね。そういう意味でも、今回、3人のアーティストの個展が同時期に開催されて、それを非常に近いエリアで見ることができるというのは、いい機会だと思っています。

荒木:木村さんがおっしゃったことは、私もすごく共感します。特に森美術館は海外からのお客様が多いですし、幸い注目してもらえますが、「日本の現代美術、なにがおもしろいの?」ということを海外の人も注目しているわけですよね。その中で、エキゾチックな日本的なものを見せていくだけにはしたくない。日本に生まれ育って、日本でつくっていれば、日本のアーティストなわけで、そこからかもし出される日本的なものは必ずあると思います。ただ、明治以降、私たちは西洋流の教育を受けているわけで、そんな現代の日本人のアーティストが、どういう発信をしていくかをきちんと見せたいという意識がありました。

そういう意味では、小谷さんは、とてもいい作家だと思ったのです。欧米のアーティストの中には、コンセプト先行で、展示されているものは脱力系の「な、なんだろう、これ?」みたいな展示もありますよね。それもおもしろいのですが、一方で小谷さんは日本のアカデミックな美術教育を受けて、物をしっかりつくるということを学んでいます。そういう手仕事的なものに裏打ちされながら、しっかりとしたコンセプトを持っているし、いわゆるヨーロッパとかアメリカのアーティストでは思いつかない感覚を持ち合わせていると思います。弱々しくない、強さをもった、そういう小谷さんの作品をきちんと見せたいと思ったのです。ヨーロッパの人たちが求めるような、オリエンタルな雰囲気や日本的なはかなさとは異なる作品をきちんと発信していきたい。そしてそれをしっかり説明もしたい、言語化したいという気持ちは、すごくありました。

あとは、15年前の曽根さんとの体験ではないですが、私にとって、自分の抱えているいろいろな問題の突破口になるヒントを、常に現代美術が与えてくれるのですよね。「あっ、そうか、そんな考え方があるの」と思うだけでも、ふと気持ちが軽くなるというか。視点がちょっとずれるということの清々しさや解放感はすごくある。現代美術には、とても実用的な効用があると思います。


《inferno》 2010 森美術館「小谷元彦展:幽体の知覚」展示風景、Photo: Kioku Keizo

アートは、「余裕があればちょっと見るもの」とか「お金があれば買ってもいい」というものではないと思います。普段生きている上で見ないように蓋をして、「ゴタゴタはあるけれど、時間もないし、ないことにしよう」と思っていることを、アーティストは、これでもかというぐらいにこじ開けて、私たちの前に提示してくれる。

小谷さんの作品も、一見グロテスクなものが多いけれども、「あっ、私、確かに、これに蓋していたけれど、あるよね」という真理を突きつけてくれる。そのアーティストの勇気を私は尊敬します。日々のことに追われている私たちにはなかなかできないことを、彼らがやってくれている。それは自分が生きていく上での「そうなんだよね」と再確認するヒントになっている。その実用的なヒントを、もっともっとみんなに伝えたいという思いがありますね。

だから、「現代美術って難しいな」、「よくわかんない」、「いや、私、詳しくないから」ではなくて、「いや、とっても実用的で、あなたの今の生活に直結しているよ」ということを伝えたいですし、美術館や現代美術を自分流に利用してくれないかなと思っています。そのガイダンスをするのがキュレーターだと思っているので、そのスタンスで現代美術をこれからも紹介していければと思っています。
 

<関連リンク>

・公開セッション『日本、現代美術の可能性』
第1回 作品を通してオーディエンスと繋がっていくアーティストたち
第2回 現代美術とは、生身の作家と一緒に仕事をすること
第3回 展覧会づくりは、作家と観客のはざまに立ったせめぎ合い
第4回 アーティストから、現代美術の考え方を学んだ
第5回 展覧会の企画は、"博打"のような感じではじまる
第6回 面白い展覧会づくりのために、自主規制を突き崩す!
第7回 美術館が連携して日本のアートシーンを盛り上げていきたい

「曽根裕展 Perfect Moment」
 東京オペラシティ アートギャラリー
 会期:2011年1月15日(土)~3月27日(日)

「高嶺格:とおくてよくみえない」
 横浜美術館
 会期:2011年1月21日(金)~3月20日(日)

「小谷元彦展:幽体の知覚」
 会期:2010年11月27日(土)~2011年2月27日(日)

カテゴリー:01.MAMオピニオン
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