若手と呼ばれる作家の個展を開催することへの抵抗感など、美術館が自ら敷いてしまう規制に対して違和感がある......。東京オペラシティ アートギャラリー、横浜美術館、森美術館の3館キュレーター鼎談は展覧会づくりの興味深い裏話が続きます。
高嶺格《とおくてよくみえない》2011年、横浜美術館展示風景
撮影:今井智己
木村:例えば、美術関係者の人たちに「次はどんな展覧会をやるんですか?」と聞かれ、「高嶺さんの展覧会を準備しているんです」というような話をすると、「高嶺さんはオルタナティブなスペースでこそ、生きる作家なんじゃないの?」という声や、「美術館でやるのはちょっと大変なんじゃないの?」というような意見などもありました。美術館の学芸員、館長のような人から、そういう発言が出てくるというのは本当に不思議なことだなと思っていたのです。
横浜美術館で、三木あき子さん(「横浜トリエンナーレ2011」のアーティスティック・ディレクターで、パリのパレ・ド・トーキョーのチーフ・キュレーター)と高嶺格さんとの対談がありました。打ち合わせでその話をしたら、三木さんが、「美術館で、そういうアーティストを紹介することが、キュレーターのおもしろさであって、それでこそ美術館が新しいアーティストを紹介することの意味があるのに、みずから自主規制をかけてしまうようなことは、少なくともヨーロッパでは考えられない」と仰っていたのが印象的でしたね。
荒木:そうですよね。今回小谷元彦さんの展覧会を開催するにあたって、「小谷さんは若手だしまだ早いんじゃないか」というような反応も、実は割とありました。でも、小谷さんはもう39歳になるし、決して若手ではありません。高嶺さんもそうですよね。
木村:40歳を過ぎています。当館の中でさえ、「若手作家」と言うような職員もいたりして、「いやいや、もう若手とは言えないと思う」という状況が日常的にあるのです。外でも、「それは、また大胆なこと......」といった反応をされるのが不思議だなと。大御所とだれもが認める年齢やキャリアにならないと、日本の美術館では個展をやってはいけないのかというのは、常々疑問に思うところですね。そういうのは本当に自主規制だと思うので、少しずつでも突き崩していきたいなと思うところですね。
荒木:でも、10年前に比べれば、現代美術を扱う美術館は増えたような気がします。
<関連リンク>
・公開セッション『日本、現代美術の可能性』
第1回 作品を通してオーディエンスと繋がっていくアーティストたち
第2回 現代美術とは、生身の作家と一緒に仕事をすること
第3回 展覧会づくりは、作家と観客のはざまに立ったせめぎ合い
第4回 アーティストから、現代美術の考え方を学んだ
第5回 展覧会の企画は、"博打"のような感じではじまる
第6回 面白い展覧会づくりのために、自主規制を突き崩す!
第7回 美術館が連携して日本のアートシーンを盛り上げていきたい
・「曽根裕展 Perfect Moment」
東京オペラシティ アートギャラリー
会期:2011年1月15日(土)~3月27日(日)
・「高嶺格:とおくてよくみえない」
横浜美術館
会期:2011年1月21日(金)~3月20日(日)
・「小谷元彦展:幽体の知覚」
会期:2010年11月27日(土)~2011年2月27日(日)