「以前曽根さんの展覧会を担当したとき、もっと自由な、もっと可能性のあるものにしていこうとする、その力に励まされた」と、駆け出しの頃の思い出を語る森美術館のキュレーター 荒木。東京オペラシティ アートギャラリー、横浜美術館、森美術館の3館キュレーターの鼎談は、アーティストとの展覧会づくりの難しさ、そして面白さに話が及んでいきました。
東京オペラシティ アートギャラリー「曽根裕展 Perfect Moment」展示風景
photo© KIOKU Keizo
荒木:森美術館の性質上、制約は山のようにあります。ありがたいことに大勢のお客様が来てくださる美術館であるということ、それからお客様が必ずしも美術館目当てではなくて、4割ぐらいは展望台目的であること。展望台に来たお客様が共通チケットで来られたり、はとバスツアーで来る方もいらっしゃいます。彫刻作品などに触れてしまう場合もあるので、最初の「ハピネス展」では、作家には黙っておいて、オープニングが終わったら、作品に近づけないように結界を張るようにしたりしました。
観客の安全は、絶対に確保しないといけないですし、それから作品保護もあります。作品について、アーティストは自分の作品という気持ちがすごく強いですが、ほとんどはレンダーやコレクターから借りているものです。ということは、もう作家自身の作品ではないわけです。私たち美術館の立場では、大事なレンダーからお借りしているものなので絶対間違いがあってはいけません。その立場の違いから来る大変さはありますね。
堀:今回は曽根裕さんのときよりも大変でしたか。
荒木:いい勝負という感じでしょうか(笑)。曽根さんの展覧会は15年前ですから私も若かったですし、まだ駆け出しで右も左もわからないということもあって、ものすごく大変でしたが、同時にとてもおもしろかったという思い出がありますね。
私は曽根さんから、いろいろな現代美術の考え方の洗礼を受けました。例えば《ナイト・バス》にしても、実は曽根さんは、どの旅にも行っていません。すべて、「夜行バスから見える車窓から見える風景を撮ってきてね」と友達に指令して、それを編集したのが曽根さんなわけです。曽根さんは東京にいて、「自分はいながらにして旅を味わった、だからこれは僕の旅なんだ。見たことのない美しいものを探していくことが旅だとしたら、これもれっきとした自分の旅なんだ」ということを言っていて、「ああ、なるほど、本当にそうだな」と思いました。
そういういろいろな、旅という解釈にしろ、風景にしろ、どういうふうに構造を崩して、自分なりの解釈をして、そしてそれを人にも「そうだな」と思わせるような説得力を持たせるか。それを言葉だけじゃなくて、ビジュアルでつくり上げるという、その手腕の見事さ。曽根さんのつくっていく様子をずっと見たことで、大きな刺激を受けましたよね。その手法や現代美術のおもしろさ、あるいは物事をブレークスルーしていく、旅や景色、歴史などを全部解釈し直して、もっと自由な、もっと可能性のあるものにしていこうとする、その力に、私は人生ですごく励まされました。
<関連リンク>
・公開セッション『日本、現代美術の可能性』
第1回 作品を通してオーディエンスと繋がっていくアーティストたち
第2回 現代美術とは、生身の作家と一緒に仕事をすること
第3回 展覧会づくりは、作家と観客のはざまに立ったせめぎ合い
第4回 アーティストから、現代美術の考え方を学んだ
第5回 展覧会の企画は、"博打"のような感じではじまる
第6回 面白い展覧会づくりのために、自主規制を突き崩す!
第7回 美術館が連携して日本のアートシーンを盛り上げていきたい
・「曽根裕展 Perfect Moment」
東京オペラシティ アートギャラリー
会期:2011年1月15日(土)~3月27日(日)
・「高嶺格:とおくてよくみえない」
横浜美術館
会期:2011年1月21日(金)~3月20日(日)
・「小谷元彦展:幽体の知覚」
会期:2010年11月27日(土)~2011年2月27日(日)