「伊勢谷さんの持つビジョンが、今のエコに対する考え方や環境問題より先のことを考えている気がしている」―それが、本展の最後に位置する「ネイチャー・ブックラウンジ」の空間デザインを、伊勢谷さん率いる「REBIRTH PROJECT」に依頼した理由でした。本展の企画を担当したキュレーター片岡と伊勢谷友介さんによる対談をご紹介します。
伊勢谷友介さん
片岡:今回は、「REBIRTH PROJECT」や「リバース・ビレッジ」についていろいろとお話を伺えればと思っています。ちなみに、「ネイチャー・センス展」はもうご覧になりました?
伊勢谷:僕は設営のときから、展示会場を一周りしていたんです。でも、設営中なのでさっぱりわからないじゃないですか、当たり前なのですけれど。大きなアーチ状のアルミのフレームなどを目にしたんですけれど、あれって何だったんですか?
片岡:あれは篠田太郎の3面のスクリーンですね。
伊勢谷:あの中の作品《忘却の模型》は地球の胎動を表現しているのでしょうか?
片岡:崖から赤い液が流れて、ずっと下を通って、また循環しているので、液が赤いということもあるから、まあ自分たちの身体の血液の循環というのを表現しているということで考えると、自分の体を中心にした小宇宙の象徴みたいなものですね。
昔の宇宙観って、宇宙はやっぱり方形の四角い地があって、その上に丸い天があるという考え方がすごく一般的だったわけですよね。今の地球説みたいなものに、だんだんそれが浸透していったのは、どちらかというと、ここ2、300年ぐらいのこと。そう考えると、古来の宇宙全体のモデルでもあるというような感じで。バックグラウンドには、篠田さんの庭師のときの感覚があるかもしれないですね。
伊勢谷:うーん、なるほどね。自然の縮図というか、日本庭園の考え方があるわけですね。
片岡:そうそう。そこには、やっぱり宇宙とか、それから蓬莱山などの神話、もしくは宗教上の中心地みたいなものが投影されていて、そういった概念を抽象化したような空間なんですね。全宇宙があって、その中の一部として人間が存在しているみたいなことを、映像とかインスタレーションとかで表現しようとしているんだけれど、かなりコンセプチュアルで、奥深いというか。
キュレーター片岡真実
伊勢谷:なるほどね。何か全体を見ていて、1つ1つに合点みたいな感じよりも、体感していく感じに近い展覧会だなと思ったので、無理な解釈はせず、余計な思考を排除して見ることになりましたね、僕の場合は。
片岡:そう、だから、なるべくそういう体験をしてもらいたいなと思って。昔から、古来の人たちは自然を科学的に分析していなかったわけで、雲の様子とか光の具合とか、空気中の湿気が増えたから雨が来るぞみたいな感じで、すごく体感的に自然を察知していたんだと思うんですね。それが自然崇拝みたいなことにつながり、やっぱり、森が単なる木の集合体ではなくて、森の中に何かがいるというような感覚とかを、いろいろな物語とか、昔話の中で継承していった。何となく空間の中にあるエネルギーみたいなものを、日本人は共有していたんじゃないかなという仮定に立っているんです。
今回のアーティストも、理論から入る人たちじゃなくて、やっぱり、そういう感覚から制作に入る人たち。彼らが感覚として理解をしている自然観みたいなものが、そのまま作品にあらわれていると感じますね。
それをそのまま観客の人に体験してもらって、最後にそれを少し理論づけるというか。「ああ、そういうことだったのか」とか、「それがそういう宇宙観で、それから世界の成り立ちみたいなことと関係しているのか」ということを、本、言葉でもって補完をしてもらいたいと思ったのが、ブックラウンジのアイディアの元。まあ、展覧会としては、本当に体感に集中しちゃって、その後で、もう少し考えて、掘り下げたい人は掘り下げようよというようなことだったから、49階に六本木ライブラリーがあるので、そこで選書をしてもらうと。
伊勢谷:うん。うん。
片岡:その空間デザインをどうしようかなとを考えていたときに、前から「REBIRTH PROJECT」の話を聞いていたので、何か一緒にできないかなと思っていたんですね。「REBIRTH PROJECT」、もしくは伊勢谷くんの持っている「リバース・ビレッジ」のビジョンが、今の日々のエコに対する考え方とか、環境問題に対する関心ということじゃなくて、もうちょっと先のことを考えている気がしたので。
それが今回の展覧会で掘り下げることのできる日本の自然観って何だろうということの、すごく大事なテーマだと思いました。それをさらに掘り下げていくと、日本人がどういう風に文化の中で自然現象とか自然環境を継承してきたかということがあって、その自然の美しさとか、自然をすごく身近に感じてきたことを認識することで、逆に自然と環境を大切にしなければいけないという気持ちが生まれてくるのかなという気がしたんです。
伊勢谷:うん、うん。
片岡:では、前にも一度話してもらったんだけれど、「REBIRTH PROJECT」を立ち上げようと思った経緯とか、今やっている活動と、その延長にどんなビジョンを持っているかということを、もう一度教えてもらってもいいでしょうか?
≪次回 第2回 「復活(REBIRTH)」とは人間が本当の意味で「考える葦」になること へ続く≫
【伊勢谷 友介】
1976年東京生まれ。1994年東京芸術大学入学後、1997年よりアートユニット「カクト」として制作活動を開始。1999年俳優としての活動も開始。2002年東京芸術大学大学院卒業。2003年「カクト」(劇場公開映画)を監督。2008年株式会社「REBIRTH PROJECT」設立。
<関連リンク>
・連続対談:伊勢谷友介のREBIRTH論に迫る
第1回 「ネイチャー・センス展」と「REBIRTH PROJECT」が共にする想い
第2回 「復活(REBIRTH)」とは人間が本当の意味で「考える葦」になること
第3回 47都道府県の失われゆく技術にもう一度光を当てる
第4回 俳優、アーティスト、事業家...伊勢谷友介の目指す姿とは?
第5回 白洲次郎を演じるなかで浮かび上がった新たな思い
第6回「ああしたい」「こうしたい」を実現する元気玉プロジェクト(仮)
第7回 何足のわらじでも履いてやる
・連載インタビュー:ネイチャー・センス展を目前に(全4回)
第1回 日本の自然観を再考し、日本固有の文化を紐解く
第2回 「自然(しぜん)から「自然(じねん)」へ
第3回 「作家が紡ぎ出す、抽象化された自然のインスタレーション
第4回 「ネイチャー•センス」喚起!見えてくる日本のカタチ
・「ネイチャー・センス展: 吉岡徳仁、篠田太郎、栗林 隆
日本の自然知覚力を考える3人のインスタレーション」
会期:2010年7月24日(土)~11月7日(日)