俳優、アーティスト、そして事業家として活躍する伊勢谷さん。「どれがアートで、どれが表現で、どれがプロダクトでということをカテゴライズするよりも、どういう人が、どういう心持ちで作ったものなのかが重要である」と語ります。今回は、伊勢谷さんの俳優としての活動と「REBIRTH」の思想の意外な結びつきに迫ります。
キュレーター片岡は、伊勢谷さんの持つビジョンに共感して「REBIRTH PROJECT」に空間デザインを依頼した
片岡:伊勢谷さんは俳優として白洲次郎や高杉晋作を演じ、何か違うキャラクターに一瞬自分もなってみたり、重なり合ってみたりすることで、そういう人の生き方とか、人生の価値感みたいなところからも、どんどん吸収し、学んでいるという感じなんですか?
伊勢谷:本人になりきって演じるというと少し違うんです。映像の中で1つのキャラクターを描くときも、僕らは本当の事実は知らないし、実際に会ったこともないので。じゃあどうやって表現するかといったら、現代の人々の心の中に「こういう人が欲しい」という思いみたいなものがあるでしょう?そうすると、「じゃあ、この人にはこうであってほしいね」となりますよね。
例えば白洲次郎だったら、残っている資料を見る限り、声が高くて、お世辞にもかっこ良いとは言えない。なんだけれど、その印象でやっちゃうとだめだから、僕らは理想の姿をつくりあげるわけです。彼は、意志というものをきちんと持っていた人だと思うし、ネガティビティももちろんあったんですけれど、それは愛人がいたとかそんなことはちょっと放っておいて、芯の部分だけとってくると、やっぱり、それは現代で通用するものばかりだし、自分たちもこうありたいと思わせられる。演じるというのは、そこを作っていく作業だから。
時代という「枠」をいただきながら、好き勝手にその中で動ける「役」の中で、自分もこうなりたいというイメージをつくり、みんなにそういう印象を持ってもらうのが僕の仕事なんです。そういうことに自分も感化されながらね。
片岡:白洲次郎は声が高い人だったの?
伊勢谷:まあ、高いというか、格好いい話し方じゃない、そんなに。
片岡:そうなんですね。白洲次郎と言えば彼も農業をやっていたよね。
伊勢谷:そうなんです。いや、あの人は、そういう意味ではすごい人で、家具もつくっていましたし。
そして、その事が、僕のモチベーション的に、リバースを後押ししてくれたんです。
片岡:マッカーサーに自分が作ったイスを贈ったりしていましたよね。
伊勢谷:いや、変わった方ですよね。(笑)だから、何かすごいリンクしたのもありますね、その当時。「ああ、僕もやろう、頑張ろう」みたいな。
片岡:一方で、高杉晋作は若くして亡くなったんですよね?
伊勢谷: 28か29ですね。結核だから、労咳っていう。
片岡:あれだけの志のあった優秀な青年が何人も夭逝していますね。
伊勢谷:いや、幕末の志士だけなんです。その中で、うまいこと立ち回って生き延びた人間というのは、明治政府の中で大物になっていて生き残っていて、90とか80まで生きているみたいですね。
片岡:例えばアートの世界でも、シュールレアリスム宣言や未来派宣言など、20世紀の初めにいろいろなマニフェストを提言している人たちというのは、その時期ほとんど20代後半から30代前半だったんです。つまり、人生のなかで20代から30代になっていく時期というのは、時代に対する何らかの必要性とか、「今、社会、あるいは時代はこう変わるべき」という、すごく純粋で熱い思いを抱く時期でもあり、社会を変えようとする前向きなエネルギーが発せられている時期なんだろうなという気がしています。
伊勢谷:そうかもしれない。
片岡:その20代後半から30代前半ぐらいのときに、多くは「REBIRTH PROJECT」と同じように集団で活動している。ダダにしても、未来派宣言にしても、マニフェストを提言するようなエネルギーというのは、何かやはりひとりのひとりの熱意やエネルギーが集団化することによってより大きな力になるというところが、さらに面白いと思っています。
建築やデザインは集団で仕事をしている人が多いけれど、現代のアーティストはなかなか集団化しないと90年代は思っていた。でも最近また80年代前後生まれぐらいのアーティストのなかに少し集団で活動するケースも見られるようになってる。
伊勢谷:Chim↑Pomとか。
片岡:そう、Chim↑Pomもそうだし、何かグループ化している人たちがいて、ただそれは20世紀のアバンギャルドのアーティストみたいに、あるマニフェストにはなかなか発展していかないんだけれど、何か集団で活動していくことの心地よさみたいなものは多分あるなんだろうなとは思っている。その中で、「REBIRTH PROJECT」は、より明快なビジョンを持っている人たちなので、今後どういうふうに展開していくのかなと、私はとても楽しみだなと思って。
伊勢谷:俺も楽しみだなあ。
≪次回 第6回 "ああしたい""こうしたい"を実現する「元気玉プロジェクト(仮)」 へ続く≫
【伊勢谷 友介】
1976年東京生まれ。1994年東京芸術大学入学後、1997年よりアートユニット「カクト」として制作活動を開始。1999年俳優としての活動も開始。2002年東京芸術大学大学院卒業。2003年「カクト」(劇場公開映画)を監督。2008年株式会社「REBIRTH PROJECT」設立。
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第3回 47都道府県の失われゆく技術にもう一度光を当てる
第4回 俳優、アーティスト、事業家...伊勢谷友介の目指す姿とは?
第5回 白洲次郎を演じるなかで浮かび上がった新たな思い
第6回「ああしたい」「こうしたい」を実現する元気玉プロジェクト(仮)
・「ネイチャー・センス展: 吉岡徳仁、篠田太郎、栗林 隆
日本の自然知覚力を考える3人のインスタレーション」
会期:2010年7月24日(土)~11月7日(日)