展覧会

ルイーズ・ブルジョワ展:地獄から帰ってきたところ 言っとくけど、素晴らしかったわ

六本木ヒルズの巨大な蜘蛛のアーティスト!国内27年ぶり、待望の大規模個展

2024.9.25(水)~ 2025.1.19(日)

作品リスト

作品リストはこちらよりダウンロードできます。(PDF/965KB)


本展の構成

本展は、ブルジョワの創造の源であった家族との関係をもとにした3つの章から構成されています。第1章「私を見捨てないで」では母との関係、第2章「地獄から帰ってきたところ」では父との確執、そして第3章「青空の修復」では、壊れた人間関係の修復と心の解放が主なテーマとなっています。
さらに、各章をつなぐ2つのコラムでは、初期の重要作品を年代順に紹介しています。

第1章 私を見捨てないで

ブルジョワは一生を通じて、見捨てられることへの恐怖に苦しみました。「私を見捨てないで」と題した本章で紹介する作品群は、この恐れが、母親との別れにまでさかのぼることを示唆しています。ブルジョワは両義的かつ複雑性に満ちた「母性」というテーマのもと《自然研究》をはじめとする作品を制作する中で、母と子の関係こそが、将来のあらゆる関係の雛形になるという確信に至りました。
また、彼女はかつて「わたしの彫刻はわたしの身体であり、わたしの身体はわたしの彫刻なのです」と語りました。ブルジョワの作品群には人体の断片のイメージが度々登場しますが、そこには不安定な精神状態や、精神の崩壊の象徴や兆候が表わされています。

ルイーズ・ブルジョワ《良い母》
ルイーズ・ブルジョワ
《良い母》(部分)
2003年
布、糸、ステンレス鋼
彫刻とスタンド:109.2×45.7×38.1 cm
撮影:Christopher Burke
© The Easton Foundation/Licensed by JASPAR, Tokyo, and VAGA at Artists Rights Society (ARS), New York
ルイーズ・ブルジョワ《自然研究》
ルイーズ・ブルジョワ
《自然研究》
1984年
ゴム、ステンレス鋼
彫刻:76.2×48.3×38.1 cm
撮影:Christopher Burke
© The Easton Foundation/Licensed by JASPAR, Tokyo, and VAGA at Artists Rights Society (ARS), New York

第2章 地獄から帰ってきたところ

第2章「地獄から帰ってきたところ」では、不安、罪悪感、嫉妬、自殺衝動、殺意と敵意、人と心を通わせることや依存することに対する恐れ、拒絶されることへの不安など、心の内にあるさまざまな葛藤や否定的な感情が作品をとおして語られています。人間の頭部を象った《拒絶》はその一例です。
ブルジョワは、彫刻を創作することを一種のエクソシズム(悪魔払い)、つまり望ましくない感情や手に負えない感情を解き放つ方法だと信じていました。素材に抗って作業することが、攻撃的な感情のはけ口になりました。
また、彼女は精神分析を通じ、自らの作品の多くが父親に対する否定的な感情から生まれたということを理解しました。インスタレーション作品《父の破壊》では、横柄で支配的な父親の像を食すことで復讐を果たすという幻想を表現しています。この独創的な作品は彼女の芸術活動の一つの頂点であり、波打つ抽象的な風景から、より性的に露骨な身体部位の表現まで、1960年代から1970年代初頭にかけて彼女がフォルムや素材で探求してきたことの集大成ともいえます。

ルイーズ・ブルジョワ《拒絶》
ルイーズ・ブルジョワ
《拒絶》
2001年
布、鋼、木、鉛、アルミニウム、ガラス
彫刻:63.5×33×30.5 cm
撮影:Christopher Burke
© The Easton Foundation/Licensed by JASPAR, Tokyo, and VAGA at Artists Rights Society (ARS), New York
ルイーズ・ブルジョワ《父の破壊》
ルイーズ・ブルジョワ
《父の破壊》
1974年
アーカイバル・ポリウレタン樹脂、木、布、照明
237.8×362.3×248.6 cm
所蔵:グレンストーン美術館(米国メリーランド州ポトマック)
撮影:Ron Amstutz
© The Easton Foundation/Licensed by JASPAR, Tokyo, and VAGA at Artists Rights Society (ARS), New York

第3章 青空の修復

ブルジョワは自らを「サバイバー」と考え、自身の芸術が松葉杖や義肢のように機能することで様々な苦難を克服できたと信じていました。本展の最終章「青空の修復」では、彼女の芸術がいかにして、意識と無意識、母性と父性、過去と現在のバランスを整え、心に平穏を取り戻そうとしたのかに迫ります。たとえば、《トピアリーIV》と《雲と洞窟》は回復と再生の力を見事に表現しています。それは、ブルジョワが言うところの「芸術は正気を保証する」にほかなりません。
アーティストとして、自らの無意識の領域に直接アクセスできると信じていたブルジョワは、内なる性的および攻撃的なエネルギーや衝動を、芸術表現として昇華できると確信していました。彫刻をはじめとする彼女の作品は、人間の心理状態を象徴する表現であり、混沌とした自らの感情に秩序をもたらそうとする試みです。
また、ブルジョワは自身や家族の衣服など彼女の人生に関わる布を用いることで、過去を永遠のものにしようとしました。縫い合わせる、繋ぎ合わせるという行為は、別れや捨てられることに対する恐れを払いのけることを象徴すると同時に、一家のタペストリーの修復工房を営んでいた母親と自分を無意識のうちに重ね合わせていることの証でもあるのです。

ルイーズ・ブルジョワ《トピアリーIV》
ルイーズ・ブルジョワ
《トピアリーIV》
1999年
鋼、布、ビーズ、木
68.6×53.3×43.2 cm
撮影:Christopher Burke
© The Easton Foundation/Licensed by JASPAR, Tokyo, and VAGA at Artists Rights Society (ARS), New York
ルイーズ・ブルジョワ《雲と洞窟》
ルイーズ・ブルジョワ
《雲と洞窟》
1982-1989年
金属、木
274.3×553.7×182.9 cm
撮影:Christopher Burke
© The Easton Foundation/Licensed by JASPAR, Tokyo, and VAGA at Artists Rights Society (ARS), New York

コラム1 堕ちた女—初期の絵画と彫刻

ここでは、1938年にアメリカ人美術史家のロバート・ゴールドウォーターと結婚し、移り住んだニューヨークで最初の10年間に制作された絵画と彫刻に注目します。
女性と建物が合体した絵画群「ファム・メゾン(女・家)」(1946-1947年)、故郷フランスに残してきた家族や友人らがモデルとなった彫刻群「人物像」(1946-1954年)など、初期の重要なシリーズを展示します。なかでも初期絵画作品は、近年注目を浴び、評価が進んでいます。この時期に絵画のモチーフとなった自画像、建物、樹、女性像は、その後60年にわたり作品の中に繰り返し現れてきました。

コラム2 無意識の風景—1960年代の彫刻

コラム2では、1951年の父の死後、精神分析に専念し創作活動を休止していた状態から徐々に抜け出し、本格的に制作を再開した1960年代の作品を展示しています。
1940年代に木彫の「人物像」シリーズにみられた垂直性は、1960年代初頭から、水平性と内面性を特徴とする形態に移行していきます。樹脂、石膏、ラテックスなどの柔らかい素材を用い、成形や流し込みによって、ブルジョワの人体描写はますます抽象的になりました。たとえば、《隠れ家》(1962年)のように、巣穴や巣のような作品は、シェルターの持つ、保護と隔離の両方の性質を想起させます。1960年代後半から1970年代初頭にかけて、大理石やブロンズの彫刻やドローイング群は、再び垂直性を帯び、身体や風景のようなフォルムの反復がみられるようになりました。

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