本連載では4回にわたって、「六本木クロッシング2013 展:アウト・オブ・ダウト」の見どころを4つご紹介します。第1回目の見どころのキーワードは「社会的、歴史的文脈の再訪」です。東日本大震災を経験し、「アートは社会に何ができるのか?」という大きな問い掛けが生まれました。同じように社会変革を経験した時期のアーティストの作品などを再訪しながら、考えます。
東日本大震災を経験し、社会を支える価値観や個人による社会への関わりについて、関心や意識が高まっている今日の日本。そう考えると、戦後の復興期や1990年代以降のグローバル化の時代も、政治的立ち位置、社会的制度や価値観が大きく変化していたはず。
このような時代の転換期における社会の変革や変遷は、世界のさまざまな地域における美術表現にも大きな影響を与えてきました。本展ではこうした観点から、1950~70年代の作品、90年代の作品のなかで、政治や社会との関係が深い作品と、東日本大震災以降に制作された作品とを対峙させることで、世代間の対話を期待しています。
たとえば、1950年代に社会的な事象を記録、報告する「ルポルタージュ絵画運動」が起こりましたが、そのなかで描かれた中村宏(1932年生まれ)の作品と、日本の現代史を痛快に暴き出す風間サチコ(1972年生まれ)が、戦後の原発政策や現代の監視社会をテーマにした作品を並べて展示しています。さらには、1960年代に日本の前衛芸術運動の渦中にいた赤瀬川原平(1937年生まれ)の『櫻画報』など、1970年代の社会を風刺した作品も併せてご覧いただけます。
出展アーティストの多くは1970年代から80年代生まれですが、日本の戦後美術を体験してきた世代との対話を通して、あらためて現代を考えるきっかけになることを期待しています。
中村 宏
《島》
1956年
浜松市美術館蔵
社会状況を反映したルポルタージュ絵画、沖縄戦を主題にした、アーティスト23歳の作品!
風間サチコ
《獄門核分裂235》
2012年
撮影:宮島 径
Courtesy: MUJIN-TO Production, Tokyo
日本の原発政策にまつわる現代史を痛快に暴き出す風刺的木版画。政治へ対する意識を強く喚起させる若き絵師、風間サチコ
<関連リンク>
・1分でわかるアウト・オブ・ダウト~展覧会の見どころ
(1) 現在と過去の作品の対比を通して紐解く、社会の転換期とアート
(2) 「ナンセンス」があらわす批判精神とは?
(3) 日本古来の自然観から、近代化の意味を問う
(4) グローバルに広がる潮流「ポスト・オブジェクト」
・森美術館10周年記念展
「六本木クロッシング2013展:アウト・オブ・ダウト―来たるべき風景のために」
2013年9月21日(土)-2014年1月13日(月)