今、世界中で熱い注目を集めるアラブの現代美術。
次回展「アラブ・エクスプレス展:アラブ美術の今を知る」は、日本で初めてアラブの現代美術に焦点を当て、アラビア半島を中心としたアラブ諸国のアーティスト約30組を紹介、その一端をいち早くリポートします。
「アラブ・エクスプレス展」についてはこちら
2012年6月16日(土)-10月28日(日)
そこで今回、「1分でわかるアラブ」と題し、アラブの魅力を5つの切り口から斜め読みで解説します。全5回の連載をすべて読み終わった頃には、アラブがずっと身近に感じられるはず!
1回目は「スクリーンに映るアラブ」です。
アラブの映画大国といえばエジプトです。エジプト映画は、アラビア語圏で大衆娯楽として親しまれ、圧倒的な人気を誇ります。アラビア語の口語には、国や地域によって"方言"があるのですが、エジプトの話し言葉は他の国や地域でも理解する人が多い。それも、ひとつに映画の影響だというほどです。
エジプト映画を代表する監督、ユーセフ・シャヒーン
MISR INTERNATIONAL FILMS (YOUSSEF CHAHINE)
そのエジプト映画を代表する監督がユーセフ・シャヒーンです。1951年に「ナイルの息子」をもってカンヌ国際映画祭で初となるアラブ映画の上映を果たし、97年のカンヌでは、行き過ぎたイスラーム主義を風刺した「炎のアンダルシア」で映画祭50回記念特別賞を受賞しました。ちなみに、後者は12世紀に実在したアラブの大哲学者イブン・ルシュド(アベロエス)を登場させています。ときにエジプトの黒澤明もしくはフェデリコ・フェリーニとも称される文芸映画の巨匠は、ほかにも「アレキサンドリアWHY?」に始まるアレキサンドリア3部作など数多くの作品を残し、2008年に82歳で亡くなるまで、名実ともにアラブ映画界をリードしてきました。
日本では「炎のアンダルシア」がDVD化されていますが、ほかの作品は観られる機会がほとんどありません。その一方で、日本でもよく知られた映画が「アラビアのロレンス」でしょう。イギリス制作なのでアラブ映画とは呼べませんが、今日のアラブの起点は、この映画の舞台となった時代にあるので挙げてみました。舞台は第一次世界大戦、ロレンスはイギリス陸軍の将校として、オスマン帝国に対する「アラブ反乱」を支援します。
「アラビアのロレンス」
好評発売中 1,480円(税込)
発売・販売元:(株)ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
「パラダイス・ナウ」
ゴールデングローブ賞受賞&ベルリン国際映画祭3部門受賞作品
スタッフ 監督&脚本:ハニ・アブ・アサド/脚本&プロデューサー:ベロ・ベイアー
発売・販売:アップリンク
「パラダイス・ナウ」より
「パラダイス・ナウ」より
中東の地図を広げてみてください。まるで定規で引いたかのような直線の国境がまじっています。なんだか不自然な感じがしませんか? これは、ロレンスの活動した第一次大戦が終わって、その戦後処理によるものです。オスマン帝国解体の過程で、民族や宗教に配慮することなく、イギリスやフランスが事実上の植民地である「委任統治領」を分けあうために引いた線でした。
ターレク・アル・グセイン
《無題23 (Dシリーズ)》
2008-09年
デジタルプリント 100×133cm
作家蔵
こうした中東の境界線は創作の動機、モチーフになります。映画然り。たとえば「パラダイス・ナウ」や「シリアの花嫁」は境界が生んだ物語です。日本でもDVDなどで観られます。また、今回の「アラブ・エクスプレス展」にも、直線の国境をテーマにしたターレク・アル・グセインの写真作品《無題23 (Dシリーズ)》が出展されます。みなさんもぜひ作品を前に、まっすぐな国境に思いを馳せてみてください。
文:渡辺 悟
わたなべ・さとる
ジャーナリスト、カメラマン。2003年のイラク戦争、そして戦後も続けてイラクを取材。著書に『クルド、イラク、窮屈な日々―戦争を必要とする人々』(現代書館)ほか。雑誌『季刊アラブ』の編集に携わっている。
季刊アラブ
「1分でわかるアラブ」とは?
アラブの魅力を5つの切り口から斜め読みで解説します。
すべて読み終わった頃には、アラブがずっと身近に感じられるはず。
次回は4/18(水)更新です。
<関連リンク>
・「1分でわかるアラブ」
(1)スクリーンに映るアラブ
(2)男たちの社交場/カフェはじめて物語
(3)羊か鶏かそれが問題だ/料理にホスピタリティー
(4)悠久の遺跡がいっぱい/文明発祥の地メソポタミア
(5)美は幾何学的にあり!?/書道とアラベスク
・アラブ・エクスプレス展:アラブ美術の今を知る
2012年6月16日(土)-10月28日(日)
・★アラブに行こう!キャンペーン★実施中!<6/15(金)~10/28(日)まで>
「アラブ・エクスプレス展」の開催を記念して、抽選でアブダビ往復航空券(合計4組8名様)などをプレゼント中!
オンラインからお申し込みできます