2012年5月 2日(水)

「1分でわかるアラブ」(3)羊か鶏かそれが問題だ/料理にホスピタリティー

日本では食べることのできる機会の少ないアラブ料理ですが、欧米では非常にポピュラーな料理として人々の生活に根付いています。マトン、お豆やトマト等の野菜、ミントやカルダモン等のハーブ類、ナッツといった素材を使っており、とてもヘルシーで美味なので、一度食べると虜になる人も多いとか!
そんなイスラームの食文化といえば、「断食」が頭に浮かびますが、実は断食期間の食事こそが一番盛り上がり、街は活気に溢れ、一種のお祭りのようなるそうです。

今回はそんな魅力溢れるアラブの「食」の秘密をご紹介します。
5つの切り口からアラブを斜め読みで解説する「1分でわかるアラブ」。
今回もどうぞお楽しみください。
 


チキン選択の定食。ボリュームたっぷり、まるごとローストの半身で一人前です
撮影:渡辺 悟

イスラームでは純太陰暦を用います。その9番目の月「ラマダーン」の1ヵ月間、イスラーム教徒は断食をします。純太陰暦では新月から次の新月までの間をひと月とするため、1年は354日。太陽暦より11日少ないので、断食の季節は毎年ずれていきます。
ラマダーンでは、厳格な人は自分の唾液さえ飲み込まないといいますが、ただしそれは日中だけのことで、日没後は飲食が許されます。むしろ普段より街中は賑やかでお祭りのようになるのです。「いつもと違った生活リズムのなかで、人びとは活気づく」。片倉もと子さんが、著書『イスラームの日常世界』(岩波新書)にカイロ留学中の体験を記しています。その章のタイトルは「断食月はたのしい」ですから、みなさんの抱くイメージとは違うのでは?


羊肉のケバブ。ひき肉をつくねにして焼いたもの。丸く平べったいパンにはさんで食べます
撮影:渡辺 悟

日没後、最初にとる食事を「イフタール」と呼びます。聖地メッカやメディナでは巡礼者たちに無料でイフタールが供されるのですが、膨大な人数ですから費用もたいへんなものです。それをまかなうのが持たざる者のための寄付、「喜捨」だそうです。喜んで捨てる。奉仕の機会を与えてもらったという考え方で、「情けは人の為ならず」ですね。聖地に限らず、イフタールはできれば多めにつくる慣わしで、モスクに持ち寄りたとえば出稼ぎの単身者などにふるまうといいます。

こうした他者への心遣いは外の人間へも。アラブのホスピタリティーはよく知られるところです。旅人や客人を大切にもてなすとき、その代表料理が羊です。


羊肉の煮込みトマト味。メインを選べばセットで出てくる"定食"で、パンもライスも付きます。付け合せの豆のスープも、ナスのシチューも、トマト味。アラブではシチュー系はたいていトマト味です
撮影:渡辺 悟


市場に山積みされた鯉。メソポタミアの香りがする?
撮影:渡辺 悟
※写真はすべてイラク

アラブでもっとも好まれるのはこの羊肉でしょう。煮込んだ羊肉のかたまりには臭みもなく、スプーンで切れるほどやわらかい。また、串やつくね状の焼き物「ケバブ」は、香辛料の香りが食欲をそそります。同様に鶏もよく食され、お世辞抜きにおいしいですよ。ただ、あまりバリエーションはありませんが・・・。イラクに長期滞在していたときは、羊と鶏を日替わりで食す日々でした。個人的にとくに気に入ったのは、ヒヨコ豆やナスのペースト料理で、日本でも自分で作ってビールの供にしています。
総じてアラブは肉食文化ですが、もてなしのご馳走には魚もあります。「マスグーフを食べに来ませんか」と自宅に招待されたことがありました。マスグーフは鯉のバーベキュー、イラクの名物料理です。この鯉、チグリス川やユーフラテス川でとれたものなんです。"メソポタミア悠久の味"では言いすぎでしょうが、すこしロマンを感じる料理です。
 

文:渡辺 悟

わたなべ・さとる
ジャーナリスト、カメラマン。2003年のイラク戦争、そして戦後も続けてイラクを取材。著書に『クルド、イラク、窮屈な日々―戦争を必要とする人々』(現代書館)ほか。雑誌『季刊アラブ』の編集に携わっている。


季刊アラブ
 

「1分でわかるアラブ」とは?
アラブの魅力を5つの切り口から斜め読みで解説します。
すべて読み終わった頃には、アラブがずっと身近に感じられるはず。

次回は5/16(水)更新です。

<関連リンク>
・「1分でわかるアラブ」
(1)スクリーンに映るアラブ
(2)男たちの社交場/カフェはじめて物語
(3)羊か鶏かそれが問題だ/料理にホスピタリティー
(4)悠久の遺跡がいっぱい/文明発祥の地メソポタミア
(5)美は幾何学的にあり!?/書道とアラベスク



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