ディープな関西のお笑いからダウンタウンに至る、お笑いへの愛を熱く語る小谷さん。映画にも、深い思い入れがあるようです。小谷さんの意外な(?)一面と、作品との関係が垣間見えるお話です。
《Hollow: What rushes through every mind》 (detail) 2010
Photo: Kioku Keizo
----お笑いが好きと伺いましたが。
小谷:今は、お笑いで息抜きしてますね。もともと、深いゾーンから入ってきてるんです。小さいとき、近所に京都花月があって連れて行ってもらってましたから。あのときは、芸人さんって、ものすごく怖かった。ブルース・ナウマンの映像作品の『ピエロ』を見てるような狂気を感じたというか、淫美なピエロを見てしまった、みたいなイメージですね。劇場の前に飾られていた、みうらじゅんさんがいうところの「一発決めポーズ」のポスターと、公園にある楽屋裏口から出てきた機嫌の悪そうな芸人さんとのギャップは、こどもにとっては、見れば見るほど怖いものでした。『あっちこっち丁稚』に出てくる木村あきらの赤ふんも怖かった。実質的には、岡八郎と花紀京との掛け合いが好きで、そこから入っていきましたね。
----それは確かにディープな関西のお笑いですね。
小谷:でもその次は、『どんぶり5656』とか『なげやり倶楽部』にはまりました。竹中直人さんとか、中島らもさんとか、シティボーイズとかキナ臭いような人たちには、退廃的でアーバンな感じと、ディスコミュニケーションな冷たい笑いを感じました。
それからダウンタウンになるんですよ。たまたま深夜番組『今夜はねむれナイト』で見たコントは、信じられないほど衝撃だった。今まで見たことのないようなアンダーグラウンドのネタが繰り広げられてて、明らかに境界を越えてた。それからダウンタウン松本人志さんっていう存在に惹かれましたね。また芸人ではないですが、みうらじゅんさんも長い間にわたってウォッチャーです。
----伺っていると、やはり現実を歪ませる、歪んだ笑いみたいなところに惹かれている感じがします。
小谷:異常性や異形性とか「異」みたいな文字がはまりそうなものはナチュラルに惹かれる。松本人志さんもここ5、6年の、映画を作ったりしている動きを見てると、考えることはいろいろありましたけど。今までよりオーソドックスなお笑い人としての、あるいは、喜劇人の王道といったところを目指しているのかなぁと。実験性や創造性より、落語家的なポジションというか。けど落語家でも、米朝とか志ん生とかじゃなくて、枝雀とか落語じゃないけど藤山寛美さんとか、あそこらへんと近いポジションに着地されようとしているのかなと。
----松ちゃんに自分を重ね合わせる?
小谷:多少は自分を重ねますね。あ、今あっちに行ってしまったな、とか。笑いの多くはローカリズムに依存しますが、芸人さんも行くところまで行けば、凄い表現者ですから。
相対化してみたらおもしろいと思いますよ、だって東京に出てきてから、関西の番組を全部ビデオに撮って送ってもらって見るほど、ダウンタウンは見てきましたからね。
「小谷元彦展:幽体の知覚」展示風景
Photo: Kioku Keizo
----それは、本当に愛を感じますね...。映画も好きと伺いましたが、そういう、自分と重ねて観るようなことは、映画にもありますか?
小谷:映画はよく観ます。わりとそういう視点で観てますね。途中から、ただ観てるって感じじゃなくなって、構造を探ったりとかはよくあります。僕、お化けとか、普通の人が怖いというものを、怖いと思わないんです。小さいときは怖がりだったんですけど、特撮とかSFXの本が好きで良く読んでましたから、技術的な種明かしをいっぱい知ってしまって、もう笑えてしまうようになったんです。逆に『フォレストガンプ』とかのキャラクター設定は怖いですね。政治的な背景よりも純粋さが黒くみえるな、と思って観てしまいます(笑)。
ここ最近は、人間として超えられない境界や存在の矛盾を抱えたものにずっと惹かれて見直しています。特にラース・フォン・トリアーとかイ・チャンドンに興味を持っています。また他の監督が言っていた台詞ですが、「自分の内部で何かが生きているという感覚は官能的だ」という言葉は、作業中ふと思い出すことがあります。
----仏像、映画、お笑い、マンガ、ファッション。そしてホームタウン京都と、育った環境。小谷さんの秘密を少しずつ見せていただいて、その作品世界をさまざまな角度から感じられたように思います。ありがとうございました。
【児島やよい プロフィール】
フリーランス・キュレーター、ライター。慶応義塾大学、明治学院大学非常勤講師。「草間彌生 クサマトリックス」展に企画協力。「ネオテニー・ジャパン--高橋コレクション」展(上野の森美術館他巡回)等のキュレーションを手がける。
<関連リンク>
・「小谷元彦展:幽体の知覚」アーティストの素顔に迫る ~小谷元彦インタビュー
第1回 <幽体=ファントム>とは何か?展示を前に思いを語る
第2回 映像で彫刻をつくるということ
第3回 彫刻という表現の可能性--始まりは「仏像はエフェクト」という開眼だった
第4回 生まれ育った京都で、ファントムを感じていたのかもしれない
第5回 優雅さと暴力性、ファッションの魅力とマンガの影響
第6回 お笑いと映画への愛 自分に重ね合わせる、リスペクトする人たち
・「小谷元彦展:幽体の知覚」
会期:2010年11月27日(土)~2011年2月27日(日)
・森美術館flickr(フリッカー)
展示風景「小谷元彦展:幽体の知覚」