ファッションと、メディアとしてのファッションショーに興味があるという小谷さん。どこに惹かれるのか。そしてマンガを語る中にも、独特の視点が感じられます。小谷さんの作品世界を知る上で大きなヒントになる部分を、語っていただきます。
「小谷元彦展:幽体の知覚」展示風景より
----実家のお店にファッション雑誌があって、子どもの頃から見ていたとのお話しでしたが、ファッションには興味がありますか?
小谷:ファッションは大学生の頃ほどではないにせよ、興味は持っています。彫刻科で学生やっている時は僕がいちばん向いてるのはファッションというメディアかもと何度も思ったことがありました。特に美術館の展覧会ってひとつのメディアだと思うんですけど、ファッションショーも同様のメディアですよね。ステージという特殊環境の上に生身のモデルがいるライヴ感と、いわゆる日常からちょっと遊離した世界で観客を迎えいれ、短時間で爆発させる世界には、ずっと興味があります。ホワイトキューブという美術での展覧会の表現形式だけでないメディア出力はやってみたい。生身の身体があるライブ的なものはアイデアがあるのでやってみたいなと思っています。誰かオファーください(笑)
----特に好きなデザイナーや、注目している人はいますか?
小谷:1990年代後半のロンドンのシーン。アレキサンダー・マックイーンがエイミー・マランスの義足を作った時に、これはあかん、と思った。ここに入ってこられたら僕の表現の場所と衝突してしまうと。その頃ぼやっと考えてたことをいったん全部撤収しました。
優雅さとか、ある種の暴力性とかをぜんぶ込めたメディアとしてファッションは可能性があると思う。生身のモデルがそれを着ることによって、優雅さと暴力性が中和されて同居する。当時のマックイーンのやっていたことは、僕の嗜好と凄く近い人の表現だと思ったし、途中で見てるのが表現者立場としては避けたくなった。
ライヴはお金もかかるし、服飾のことはさすがに基礎から勉強するほど余裕が無かったし、僕の考えでは非経済的すぎて二の足を踏んでしまう。何も出来ない自分の現状がくやしいな、と思って見てました。
----小谷さんの作品にも、優雅さと暴力性という要素はありますよね。
小谷:うーん、でも、それだけになってしまうと、作家の態度としては危険だと思いますね。何にせよ、ファッションというメディアを通せば、僕が美術という枠ではなかなか開くことができない引き出しが開く可能性は充分にあると思います。
《ダブル・エッジド・オヴ・ソウト(ドレス02)》
1997年
髪の毛
166 x 70 x 3 cm
所蔵:金沢21世紀美術館
Photo: Kunimori Masakazu
Photo courtesy: YAMAMOTO GENDAI, Tokyo / P-House, Tokyo
----制作以外で、ふだんよく見るものは?たとえばマンガはどうですか?
小谷:基本的に漫画はそれなりにしか読んでないです。そんな中でも『GANTZ』は1年くらい前に読んで身体とバーチャル環境との関係が複雑に描かれていて、これは「ファントム」だとおもいつつ、勝手ながら共感しています。制作方向としても、画面に執拗な抵抗をつくるまでデジタルとアナログを行き来させているのも興味深いです。他にも僕が好きな漫画に共通してるのは、気持ち悪いくらい西洋世界をベースにしてることが多い点ですかね。これ、僕がまだ解読できてないコードなんですよね。日本文化の中にあるキリスト教的なバックグラウンドというか、西洋世界の雰囲気を持っていながら日本人が描いて成功しているもの。『デビルマン』なんかは個人的にバイブルのようにしてましたけど、露骨にキリスト教的な終末思想や様々な背景が出てきます。日本人が表現する時のキリスト教とのつきあい方というかデコードの仕方というのが、なにかあるんじゃないかと思うんですよね。たとえば『エヴァンゲリオン』にも通じる表現世界だと思うんですが。
----なるほど。それは、日本の近代の美術にも感じるコードですよね。
小谷:まさしく、そこも透視できる。無神論だが八百万の神を感じてしまう国民性がねじれを作っているのか、各種多様な宗教的イコンやイメージが表現のベースでものすごく存在していたり、その背景を利用したり、はたまた平気で破棄して描かれていたりする。歴史的に読み解く必然性があると思いますが、これを自分なりに解読したいと思っています。
《次回 第6回 お笑いと映画への愛 自分に重ね合わせる、リスペクトする人たち に続く》
【児島やよい プロフィール】
フリーランス・キュレーター、ライター。慶応義塾大学、明治学院大学非常勤講師。「草間彌生 クサマトリックス」展に企画協力。「ネオテニー・ジャパン--高橋コレクション」展(上野の森美術館他巡回)等のキュレーションを手がける。
<関連リンク>
・「小谷元彦展:幽体の知覚」アーティストの素顔に迫る ~小谷元彦インタビュー
第1回 <幽体=ファントム>とは何か?展示を前に思いを語る
第2回 映像で彫刻をつくるということ
第3回 彫刻という表現の可能性--始まりは「仏像はエフェクト」という開眼だった
第4回 生まれ育った京都で、ファントムを感じていたのかもしれない
第5回 優雅さと暴力性、ファッションの魅力とマンガの影響
第6回 お笑いと映画への愛 自分に重ね合わせる、リスペクトする人たち
・「小谷元彦展:幽体の知覚」
会期:2010年11月27日(土)~2011年2月27日(日)
・森美術館flickr(フリッカー)
展示風景「小谷元彦展:幽体の知覚」