2010年12月14日(火)

映像で彫刻をつくるということ ~小谷元彦インタビュー(2)

木彫や樹脂の彫刻のみならず、<映像彫刻>ともいうべき作品をつくる小谷元彦さん。出品作品の《インフェルノ》はハイビジョン映像8面で構成される圧倒的な体感型インスタレーションです。映像と彫刻の関係、そして新作について語っていただきました。(文・児島やよい)


《インフェルノ》2010年

----今回の出品作品の中でも、新作の《インフェルノ》は特に圧倒的な迫力を持った、体感型のインスタレーションです。<映像彫刻>とも位置づけられていますね。映像と彫刻というのは、小谷さんの中でどういう関係にあるのでしょうか?

小谷:古典的な意での彫刻をつくるという作業は、木彫でもブロンズでも大理石でも、どんな素材でどんな作業をしていても、そのプロセスのどこか1コマの段階を切り出すようなものだと思っています。たとえば映像で言うところの1秒間30コマとするなら、30コマのうちのひとつの形に集約して、造形化する作業。つまり、いいシーンがあったら、そのうちの1コマを造形化する、というようなことですね。だから、その1コマに制限されてしまうという窮屈さがあるんです。その前後の時間を盛り込まなきゃいけない。その意味で、彫刻は不自由だなと感じています。現代においては遅すぎるメディア。僕が考えて、やろうとしていることのスピードに彫刻はついてこられない。

その点、映像の場合は、1コマを切り出す作業をしなくてよいので、可塑性が非常に強い。彫刻で言えば、粘土で付けたり取ったりする、あら付けの時に、意外とおもしろい形が現れる時があります。ちょっとここにナイフを入れてみよう、とか。そういった流動的、可塑的な状態をつくり出しやすい、粘土みたいな素材に近いのが、映像というメディアなんじゃないかと思っています。

----《インフェルノ》は、2001年に発表された《9th room》の流れを汲む作品ですね?当時からそのように考えていたのでしょうか。

小谷:映像を最初に使い始めた時は、まだ制作する上でどういう武器を使ってやっていくか、自分自身で整理し切れていない部分がありました。きれいにつくろうとしたら、映像ならいくらでもできる。編集次第でいかようにもなる。その武器を選ぶか選ばないか。当時よりも、シンプルな構造でありつつ、より複雑化させたほうがいいと、はっきりした方向性が見えてきた。それで、この展覧会の話が始まる前から、もう一度撮影に行き、編集をやり始めていたのが今回の作品です。だから前作とは別物、ですね。

----音も重要な要素になっている?

小谷:勿論そうですね。今回は極力、生のものをできるだけ使おうと思って、人の声と滝の音しか使っていないです。

《インフェルノ》を含めて新作が14点、しかも大作ばかりですね。新作にかける思いは?

小谷:ちょっと身辺整理をさせていただきました、という感じ(笑)です。たとえば《Raffle》は《Drape》(1998年)のコンセプトをもっと明確に人に伝えるためにつくり直した作品です。作家によっては、同じシリーズでずっとつくり続ける人もいますが、僕の場合、いくつかシリーズがあって、そのひとつに戻ってくる周回に時間がかかるんです。戻っては、コンセプト自体をあまり変えずに、より強力に進化させたいと、強く思う。常に上書き保存を繰り返していくんですね。


展示風景。左の作品が《Raffle》

----《Raffle》と《I See All》は木彫ですね。《Dying Slave Stella》《Hollow unicorn》は樹脂を素材として、それぞれ迫力のある作品です。

小谷:樹脂でも、複雑なことはしていないですよ。いろいろな作品を展示しますが、何か1点でも自分にハマる、引っかかるものを、体験として持ち帰ってもらえたらいいなと思います。

《次回 第3回 彫刻という表現の可能性--始まりは「仏像はエフェクト」という開眼だった に続く》

【児島やよい プロフィール】
フリーランス・キュレーター、ライター。慶応義塾大学、明治学院大学非常勤講師。「草間彌生 クサマトリックス」展に企画協力。「ネオテニー・ジャパン--高橋コレクション」展(上野の森美術館他巡回)等のキュレーションを手がける。
 

<関連リンク>

・「小谷元彦展:幽体の知覚」アーティストの素顔に迫る ~小谷元彦インタビュー
第1回 <幽体=ファントム>とは何か?展示を前に思いを語る
第2回 映像で彫刻をつくるということ
第3回 彫刻という表現の可能性--始まりは「仏像はエフェクト」という開眼だった
第4回 生まれ育った京都で、ファントムを感じていたのかもしれない
第5回 優雅さと暴力性、ファッションの魅力とマンガの影響
第6回 お笑いと映画への愛 自分に重ね合わせる、リスペクトする人たち

「小谷元彦展:幽体の知覚」
会期:2010年11月27日(土)~2011年2月27日(日)

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