2010年7月 7日(水)

上野千鶴子 「アラフォーおひとりさまの生きる道」を聴いて


おひとりさまの保険制度について語る

女性学、ジェンダー研究を専門とし、ベストセラー『おひとりさまの老後』などを著書に持つ上野千鶴子さん。先日開催した「MAMアートコース第11回」では、日本の少子高齢化社会の原因でもある「アラフォーおひとりさま」について、大変興味深いお話を聞くことができました。その内容を、まさに「アラフォーおひとりさま」である森美術館担当者が、当事者の視点からご紹介いたします。

"おひとりさま"は、もはやライフスタイルのひとつに
今回のテーマは、六本木ヒルズで行われる講演会としては大変相応しいものであったと思います。というのも上野さんいわく、「アラフォー世代はポスト均等法世代、人口学的には日本における晩婚化、非婚化、少子化の先駆けで、30代後半の女性のシングル率は2005年で約18%、大都市圏では3割台にものぼり、東京だと、やはり港区、渋谷区、新宿区、中央区などの中心エリアが圧倒的に多い」からだそうです。

非婚女性が都市部で多いことの一番大きな理由は、経済的な自立ができており、理想を追い求めるゆえに「なし崩しシングル」になった女性が住んでいる率が高いから。こうして、大部分の「なし崩しシングル」に加え一部の非婚主義者をも含めることで、良くも悪くも「女性のシングルライフは、もはやライフステージ上の結婚までの待機の時間ではなく、完全にライフスタイルの選択肢のひとつとなった」のです。

さらに、こうしたシングル女性の多くは、母親に「自立しなさい」という夢を託されて育ってきた背景があり、引いては、親にとっての「娘」が「息子」化している状況がある。両親から見て、老いた時に役立つのは息子ではなく娘である、というお話も印象的でした。


「今の政治をあきらめる前に参加しなさい」とメッセージ

"おひとりさま"の生き方、死に方
しかし、一番気になるのは「アラフォーおひとりさま」が今後どうしたら良いのか?ということでしょう。「私はずーっとおひとりさまでした。これからも・・・?」という、上野先生に最も多く届く身の上相談に対し、先生は力強く「YES、OK!」と回答されています。その理由は「今まで一人で生きてきたのだから、これからだって一人で大丈夫」というもの。ただし条件付きで、「経済的に自立している」「将来の介護問題もクリア」ということに加え、「ひとりの時間の使い方を知っている」といった点もクリアしなければなりません。

さらに、ここで強調されていたのが「老後の自立のために、自分の年金は手放すな!」ということと、「国民皆保険(健康保険、介護保険)制度を守れ!さらに、おひとりさま仕様の保険制度に!」ということでした。政治を諦める前に、参加しなさいというお話にはまさに共感。こうした年金問題を主題にした『世代間連帯』(辻元清美氏と共著)を2009年に出版されているとのこと、ぜひ読んでみたいと思いました。

最後に、「老い方」「死に方」についても触れられ、「在宅看護は環境さえ用意できれば可能なのに、家で死にたいと思っている人の願いが往々にして(世話を見切れない)遠い親戚の指示によってないがしろにされ、病院で最後を迎えられるケースが多い。私も本当にひとりで良かったと思いました(笑)」と上野先生。確かにそうかもしれない、と思わず考えさせられました。

男おひとりさまへのアドバイスとは?
質問コーナーでは、面白い質問がたくさん挙がりました。ある男性からは、「先生は、男おひとりさまは女に可愛がられる男になれ、とおっしゃっていますが、それは、先生がかつてフェミニストとして男性に対して批判していた態度を、男性に対してやり返しているだけなのではないですか?なんだか、モヤモヤしてしまうのですが・・・」という質問が。対して上野先生は「長年学者をやっているので、各種の質問への回答集を用意しているけれど、こうした質問が来るとは考えていなかったわ・・・。確かにあなたのモヤモヤは正しいです!ですが、これはあくまでも現実的な生存競争において、男は女みたいに互いにつるんだり、ケアし合ったりしないので、男おひとりさまは、女性に弱みを見せることで助けてもらう方が生きやすいわよ、というアドバイスなの」と丁寧に回答されました。質問した方も納得した様子でした。

ほかにも、先生と同じ富山の高校出身者で、東京でOLをしているおひとりさまからの「蓄えもなく、今後どうしたら・・・?」という質問には、「東京都出身者に比べると、地方出身者は東京でおひとりさまを続けるのは確かに大変。でも、逆に言えばあなたには帰る故郷がある。故郷を考え直すという手もあるわ」とアドバイスされていました。


講演終了後も数多くの質問に答えました

ユーモアで聴講者を惹きこむ講演に脱帽
当事者として講演を聴き終えましたが、最終的には自分で自分の面倒は看られるように考えておくことが基本姿勢だとすれば、「アラフォーおひとりさま」も、「おひとりさま」も、また将来おひとりさまアゲインの可能性がある「お二人さま/ご家族さま」にも、精神的に自立するための心構えについて考えさせてくれる講演会だったと思います。
また、内容もさることながら、聴講者を本当に大切にし楽しませる上野節と所々に入るユーモアには脱帽しました。質問への対応もとても丁寧で、「もっと勉強して来て」とおっしゃるかと思いきや、ユーモアを交えてきちんと回答されていたのが大変好印象でした。

撮影:御厨慎一郎

※この記事は2010年6月1日に開催した、MAMアートコース第11回「アラフォーおひとりさまの生きる道」の講演をもとにしています。
 

【上野千鶴子プロフィール】
1948年生まれ、京都大学大学院社会学博士課程修了。様々な大学機関で研究及び教鞭を取った後、1995年から現職。専門は女性学、ジェンダー研究。この分野のパイオニアで指導的な理論家のひとり。近年は高齢者の介護問題に関わっている。1994年『近代家族の成立と終焉』でサントリー学芸賞を受賞、ほか『家父長制と資本制』、『スカートの下の劇場』など著書多数。『おひとりさまの老後』『男おひとりさま道』はベストセラーに。新刊に『ひとりの午後に』。
 

<関連リンク>
森美術館flickr(フリッカー)
プログラム当日の模様を写真でご覧いただけます。

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