初めて出会う人同士が《S/N》をきっかけに展開する対話。新しいコミュニケーションの可能性を見出す場が誕生しました。(文・児島やよい)
第2部ではグループに分かれてのワークショップが約40分間、行われました。
ほとんどが初めて出会う人同士の、6つのグループ。ルールは「私」を主語に話すこと、他者の発言は尊重して評価をしないこと、ここで知った個人的な情報を外部では話さないこと。
第1部の、モデレーターと出演者のトークに触発され、大いに「私はこう思う」と語る55人の参加者たち。白熱したディスカッションを展開するグループも見られました。最後に、どんな意見が話されたのか、グループごとに発表が行われました。
それぞれ短時間で工夫を凝らし、まとめた発表では、いくつものキーワードが導き出されました。
・「シグナル/ノイズ」に呼応して、リアル/非現実、マイノリティ/マジョリティといった、対極にあるもの。
・「違い」「差異」「差別」について。
・「性/生/聖にまつわる神話」。普遍性。
・今、見るものの多くはリアリティが欠如していて、あっさり忘れられてしまうのに対して、ナマっぽさがある。古橋さんの切実さは、身体に帰結する。性/生と死のレイヤー、舞台裏のリアリティがある。
・映像を観てライヴを想像する。想像力を喚起される。
・メイク、万国旗、倒れる人。女性に対する仕打ち、自分だったら...。
・そもそも人間関係って何?コミュニケーション/ディスコミュニケーション?
・ノイズ。
・《S/N》について語りながら、自分をあらためて語った。
・表現したい、もっと自分を解放していけたら。《S/N》は、自分を見直すきっかけになった。
......。
《S/N》のインパクトの強さ、さまざまな個人的な記憶や体験を呼び起こすレイヤーの豊かさをあらためて認識する場となりました。
終了後も、出演者を交えてのラウンジ・タイムで、自由なディスカッションが続きました。短い時間ではじゅうぶんに自分の思いを話せなかった参加者もいたでしょうし、結論や、何かの答えを出すワークショップではなかったので、それぞれの人の中で、問いは続けられると思います。
が、それが閉じた自問自答ではなく、人とのコミュニケーションによって開かれていくプロセスに、「新しい人間関係の海」の可能性を感じました。《S/N》を通して自分を語る、考える。他者を知る。《S/N》というスレッドに集ったコミュニティのオフ会、という趣もあり、まさに「《S/N》が切り拓く対話の可能性」が浮かび上がったプログラムでした。
撮影:御厨慎一郎
※この記事は、2010年5月11日に開催のトーク&ワークショップ「新しい人間関係の海へ--《S/N》が切り拓く対話の可能性--」をもとに編集しています。本プログラムのタイトルは、ダムタイプのメンバー・古橋悌二氏が自身のインスタレーション作品《LOVERS》について語った「新しい人間関係の海へ、勇気をもってダイブする」より引用しています。
【児島やよい プロフィール】
キュレーター、ライター。慶応義塾大学、明治学院大学非常勤講師。「草間彌生 クサマトリックス」展に企画協力。「ネオテニー・ジャパン--高橋コレクション」展(上野の森美術館他巡回)等のキュレーションを手がける。
<関連リンク>
・連載:「新しい人間関係の海へ--《S/N》が切り拓く対話の可能性--」
第1章 私にとっての《S/N》を語る」ことで、自分を再発見する
第2章 豊かなレイヤーが織り成す普遍性と強いインパクト
・森美術館flickr(フリッカー)
プログラム当日の模様を写真でご覧いただけます。
・「六本木クロッシング2010展:芸術は可能か?」
会期:2010年3月20日(土)~7月4日(日)