トークの参加者と対話する米田さん
記憶や歴史など、目に見えないものをテーマにした写真を手掛けている米田知子さんは、イメージの裏側にある"見えないもの"に興味があると言います。見えないものとは一体何なのでしょうか。「六本木クロッシング2010展」会場でお話しいただきました。
米田:初期の作品に《Topographical Analogy》というのがありますが、その作品では無名の人々、一般の人々がかつて住んでいた家の壁についた痕跡を撮りました。痕跡というのは、例えば暖炉の熱が時間を経て壁にマーキングとして残ったものなどです。その痕跡が家族の象徴とか、暖をとる子ども時代の思い出などを観る人にそれぞれ想起させる、そんなコンセプトで撮りました。
次に手掛けたのは「眼鏡シリーズ」と呼ばれている作品で、《Between Visible and Invisible》といいます。著名な20世紀の知識人の方々の書簡やノートなどを、彼らが実際に使っていた眼鏡を通して写真に撮りました。
トークでは熱心にメモを取る参加者も
私は景色や物や人物を撮っていますが、イメージの構成のようなものだけでなく、その裏側というか、"見えない部分"にとても興味があるのです。例えば風景を写した《Scene》という作品に写っているのは、かつて戦争があったり大事件が起きたりした場所ですが、観てもそうとはわからないような、たわいない風景です。その写真に《ビーチ―ノルマンディ上陸作戦の海岸/ソードビーチ・フランス》など、客観的でシンプルなタイトルをつけています。写真のイメージはとてものどかなリゾート海岸ですが、そこはかつて戦士が倒れ、激しい戦争があった場所なのです。
こうしたイメージを人種や国や性別、政治的な考えなどが異なる方々が観たとき、それぞれ違うイメージが一人ひとりのメンタルに浮かぶと思います。観客が持つメンタル・イメージは見ることができませんが、私はそこにとても興味があるのです。
撮影:御厨慎一郎
――2回連載でお届けします。次回は韓国の旧国軍機務司令部の内部を写した《Kimusa》について(主観が入らないように、一歩下がって撮る)。
【米田知子プロフィール】
よねだ・ともこ――ロンドン在住。目に見えない、ある場所や物にまつわる記憶や歴史をテーマに、ジャーナリスティックな視点を交えた写真作品を手掛ける。主なシリーズ作品に、知識人が生前に使用した眼鏡を通して、その人物にゆかりのある文章や楽譜などを写した《見えるものと見えないもののあいだ》(1998年~)、かつて戦場だった場所などの現在の姿を写した《シーン》(2002年~)など。バングラデシュで制作した近作《Rivers become oceans》(2008年)では、恋人をテーマの1つとして扱っている。
※この記事は2010年3月20日に開催した「六本木クロッシング2010展:芸術は可能か?」のアーティストトークを編集したものです。
<関連リンク>
・森美術館フリッカー
今回のアーティストトークの模様をアップしています
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米田さんの展示風景はこちらからもご覧いただけます
・「六本木クロッシング2010展:芸術は可能か?」
会期:2010年3月20日(土)~7月4日(日)