展覧会

Chim↑Pom展:ハッピースプリング

日本で最もラディカルなアーティスト・コレクティブ、最大の回顧展

2022.2.18(金)~ 5.29(日)

みどころ

1.活動初期から、多くの代表作や新作までを一挙に紹介する大型回顧展

本展は「サンキューセレブプロジェクト アイムボカン」(2007年)など初期の代表作、核の問題を扱った《ヒロシマの空をピカッとさせる》(2009年)や《LEVEL7feat.『明日の神話』》(2011年)、「ビルバーガー」シリーズ(2016/2018年)など数々の大型作品や、ユーモア溢れる小作品、参加型・体験型作品など代表作を網羅的に紹介します。国際的に活躍するChim↑Pom from Smappa!Groupの世界初の本格的回顧展となります。

2.作家発案による驚きに満ちた展示構成

本展は、作品を年代順に展示する一般的な回顧展とは趣が異なります。作品は「都市と公共性」、「道」、「Don't Follow the Wind」といったセクションに分かれて展示され、作品鑑賞のための動線を複数設けることで展覧会の多様な読み解きを可能にします。また、展示空間の演出として展示室を二層構造にし、上層部にアスファルトで舗装した大きな道が出現したり、展示室を丸ごと一室使って、多数の作品を1つの巨大インスタレーションのように構成したりするなど、ダイナミックな展示空間を体感できます。さらに会期中には会場内でイベントやパフォーマンスなども多数行われる予定です。

3.本展のための7点の新作、展覧会場に託児所をオープン

Chim↑Pom from Smappa!Groupのセルフ・ポートレートである「スーパーラット」の最新版、2020年のエリイの出産を機に構想された新作サウンド・インスタレーションのほか、Chim↑Pom from Smappa!Groupと同世代の子育て事情から発案された、展覧会場内に託児所を開設するアート・プロジェクト《くらいんぐみゅーじあむ》など、新作7 点を発表します。

4.「公共」の概念をみなさんと共に考えます

近年Chim↑Pom from Smappa!Groupは、自身のスタジオの私有地内に私道を作り、誰でも通行・利用することができるようにしました。また、台湾では美術館の屋内外に一本の長い道を作り、そこに適用される独自の規則を策定しました。このようにChim↑Pom from Smappa!Groupは「道」という主題を通じて「公共性」や「公と個」について私たちに一考を促します。

5.作品をめぐるさまざまな議論や対話を再検証します

過去にChim↑Pom from Smappa!Groupの作品のいくつかは結果的に議論を呼び、特に広島と東日本大震災を主題とする作品は論争に発展しました。本展はこれらの作品について、作品そのものだけでなく、年表や関連資料などの展示や作品にまつわる賛否両論も紹介するなど、複数の視点で論争を再検証します。

6.東日本大震災から10年、そしてコロナ禍の今、新たに見えてくるものは?

日本では2011年東日本大震災発生以降、より良い社会形成を目指す作家の活動が活発になり、Chim↑Pom from Smappa!Groupも複数のプロジェクトを行なってきました。10年を経た今、それらの再検証を試みます。
一方、2016-2017年にメキシコと米国の国境沿いで敢行した「境界」をテーマにしたプロジェクトや、2019年にマンチェスター国際芸術祭で、19世紀に同地で流行したコレラとビールの歴史的関係をテーマにした大型の参加型プロジェクトなどは、図らずしてコロナ禍で顕在化した社会課題を扱っています。そして2020年、緊急事態宣言下の東京を舞台に新作を制作するなど、日本社会を鋭い眼差しで観察しつづけています。本展はこのような彼らの活動について、今日の社会を参照しつつ、議論のプラットフォームになることを目指します。

展示の構成

10のセクションと共同プロジェクト・スペースで構成されます。

都市と公共性

《ゴールド・エクスペリエンス》
2012年
ターボリン製バルーン、ミクストメディア
650×800×600 cm
Courtesy: ANOMALY and MUJIN-TO Production(東京)
展示風景:「Chim↑Pom展」パルコミュージアム(東京)2012年

Chim↑Pom from Smappa!Groupは初期から都市を舞台にプロジェクトを多数行っています。《ゴールド・エクスペリエンス》(2012年)ではゴミ袋をエンターテインメント性溢れる巨大な立体作品に変え、近年では「Sukurappu ando Birudoプロジェクト」(2016-2017年)や《道》(2017-2018年)、「酔いどれパンデミック」(2019-2020年)など、都市論や公共性を論じるものへと発展を遂げています。

《道》
2017-2018年
オンサイト・インスタレーション
サイズ可変
Courtesy: ANOMALY and MUJIN-TO Production(東京)
展示風景:「アジア・アート・ビエンナーレ2017」国立台湾美術館(台中)2017-2018年
撮影:前田ユキ

二層構造にした展示室の上層部にアスファルトで舗装した大きな道が現れます。この「道」は、本展のために構想・制作された大規模なサイトスペシフィック・インスタレーションです。Chim↑Pom from Smappa!Groupは過去にもアスファルトを用いたプロジェクトを行い、既存の仕組みやルールから独立した空間を作り出し、そこに集う人々の自由意志と自発的なアクションが生む都市の新たな可能性を見いだそうとしました。本展の「道」も、会期中に行われるイベントやハプニングのプロジェクトスペースとして機能し、鑑賞者と一緒により自由で開かれたものに育てていくことが期待されています。

Don’t Follow the Wind

「Don’t Follow the Wind」
2015年-
Courtesy: Don’t Follow the Wind Committee

2015年から現在まで、東京電力福島第一原子力発電所の事故により放射能で汚染された福島県の帰還困難区域内で開催されている国際展です。Chim↑Pom from Smappa!Groupが発案し、自身を含む国内外12組の参加作家による新作が、元住民から提供された数箇所の会場に設置されました。しかし、放射能の除染が進み避難指示が解除されて住民の帰宅が許されるまで、一般の人々は本展を実際に訪れることができないという、“観に行くことができない”展覧会です。本展では外の景色が見える展示室で本プロジェクトを紹介し、来場者に東京の風景を眺めながら福島の今を想像してもらうことを促します。

ヒロシマ

《ヒロシマの空をピカッとさせる》
2009年
ラムダプリント、ビデオ
写真:66.7×100 cm、ビデオ:5分35秒
Courtesy: ANOMALY and MUJIN-TO Production( 東京)
撮影:ボンドナカオ

2008年、広島の原爆ドーム上空に飛行機雲で「ピカッ」という文字を描いた作品《ヒロシマの空をピカッとさせる》(2009年)。作家の意図は、「平和」という現代日本社会の基盤への無関心の蔓延を漫画的に可視化するというものでしたが、誤解や憶測も混じり、論争になりました。被爆者とその関係者に対して事前告知の不徹底を謝罪した後もChim↑Pom from Smappa!Groupは彼らや一般市民と対話を重ね、時に共働し、プロジェクトを継続しています。折り鶴を使った《パビリオン》(2013年-)や《ノン・バーナブル》(2017年)、原爆の残り火をともし続ける《ウィー・ドント・ノウ・ゴッド》(2018年)など、当地を主題にした作品を制作し続けています。

東日本大震災

《LEVEL 7 feat.『明日の神話』》
2011年
アクリル絵具、紙、塩化ビニール板、ビデオ、ほか
絵画:84×200 cm、ビデオ:6分35秒
所蔵:岡本太郎記念館(東京)
Courtesy: ANOMALY and MUJIN-TO Production(東京)

2011年東日本大震災発生直後、Chim↑Pom from Smappa!Groupは震災と津波、原発事故に関する様々なプロジェクトを立て続けに行ないました。《不撓不屈》(2011年)に始まり、《リアル・タイムス》(2011年)、《気合い100連発》(2011年)など彼らの代表作が誕生し、《LEVEL 7 feat.『明日の神話』》(2011年)では、渋谷駅にある岡本太郎の壁画《明日の神話》の右下の壁の余白部分に、福島第一原子力発電所の事故を描いた絵をゲリラ的に設置しました。現在も帰還困難区域内でプロジェクトを継続するなど、10年後の現在でもこのテーマはChim↑Pom from Smappa!Groupにとって重要なものです。

ジ・アザ―・サイド(向こう側)

《USAビジターセンター》(「ジ・アザ―・サイド」プロジェクトより)
2017年
ジークレープリント
66×100 cm
所蔵:札幌宮の森美術館
Courtesy: ANOMALY and MUJIN-TO Production(東京)
撮影:松田 修

Chim↑Pom from Smappa!Groupは2014年からアメリカの国境問題をテーマとした「ジ・アザー・サイド」(向こう側)のシリーズを手掛けます。タイトルは、アメリカ国境沿いに住むメキシコ側の人々がアメリカを呼ぶときの通称です。2016年には、「リベルタ」(Libertad、スペイン語で「自由」の意) と呼ばれる、メキシコ・ティファナにある国境沿いのスラム地域を訪れ、居住する家族の協力を得て国境の壁のすぐ横にDIYでツリー・ハウス「USA ビジター・センター」を作りました。作家が継続的に取り組むこの「境界」という主題は、移動制限や都市封鎖が行われているコロナ禍の今日、重要性を増しているのではないでしょうか?

May, 2020, Tokyo

《May, 2020, Tokyo(へいらっしゃい)―青写真を描く―》
2020年
サイアノタイププリント、ゼラチン、キャンバス、鉄フレーム
175.5×352.3×4.5 cm
所蔵:高橋龍太郎コレクション(東京)
Courtesy: ANOMALY and MUJIN-TO Production(東京)
制作風景:東京、新宿

2020年5 月、新型コロナウイルス感染拡大による緊急事態宣言下の東京で行われたプロジェクト。Chim↑Pom from Smappa!Groupは青焼き写真の感光液を塗ったビルボードを都心部の街中各所に設置。「Tokyo 2020」、「新しい生活様式」という文字の部分は感光させず、白く残しました。本作は、日光と影、雨風を援用し、「ステイホーム」のスローガンのもと、緊急事態宣言下の人通りが激減した街の外気や時間を青く焼き付けたものといえるでしょう。明るい青写真が描かれていた2020年の東京の奇妙な現実がシンプルに表現されています。

エリイ

《スピーチ》(「サンキューセレブプロジェクト アイムボカン」より)
2007年
ビデオ
1分53秒
Courtesy: ANOMALY and MUJIN-TO Production(東京)

Chim↑Pom from Smappa!Groupのメンバー、エリイは、カンボジアの地雷原にて、チャリティーとセレブリティ文化をテーマに地雷爆破と寄付のプロジェクトを敢行したり、結婚制度を社会的に検証すべく、デモ申請を行い自身の結婚パレードを路上で開催するなど、行動によって、世界に存在する根深い社会問題に新たな視点を与えてきました。時にマスメディアにも登場し、ポップアイコンとしても捉えられる一方で、文芸誌で文学作品を連載するなど、その活動と存在感は捉えどころがありません。また、一見するとChim↑Pom from Smappa!Groupの顔のようにも思われますが、既存のジェンダー観やフェミニズム論、アーティスト像に当てはまらない、エリイの多様な側面について考察します。

金三昧

《金三昧》
2022年
ショップ
サイズ可変
協力:Smappa! Group、手塚マキ、山本 彩、古藤寛也、鈴木祐介、古藤ユミ子
Courtesy: ANOMALY and MUJIN-TO Production(東京)
展示風景:「Chim↑Pom展:ハッピースプリング」森美術館(東京)2022年
撮影:森田兼次

オリジナルデザインのグッズや、どこかナンセンスで使用価値を試すような実験的な「商品」や「作品」を独自で開発・販売するショップのプロジェクトです。一見するとガラクタのように見えるものもありますが、そのほとんどがこれまで完売してきたことから、購買意欲を促す不思議な力が宿ったアイテムだと言えます。本展では館内のミュージアムショップの一角が「金三昧(かねざんまい)」となり、展覧会の一部として紹介されます。

くらいんぐみゅーじあむ

「くらいんぐみゅーじあむ」イメージ《くらいんぐみゅーじあむ》
2022年
託児施設、ほか
サイズ可変
Courtesy: ANOMALY and MUJIN-TO Production(東京)
展示風景:「Chim↑Pom展:ハッピースプリング」森美術館(東京)2022年
撮影:森田兼次

Chim↑Pom from Smappa!Groupメンバーや彼らと同世代の親の子育て事情、子連れで外出する際に経験するさまざまなバリアから着想を得た新たなアート・プロジェクトとして、会場内に託児所を開設します。子育て中の人々が積極的に美術館を利用し、アートに触れる機会を増やすことが目的です。公園や公道で大声を出して遊ぶことが禁じられ、子供の居場所が公共の場から少しずつ失われていく今、「静謐であるべき場所」としての美術館にあえて子供の遊び声と泣き声を響き渡らせることで、美術業界のみならず社会全体における子育て環境への問題提起を試みます。
※《くらいんぐみゅーじあむ》の営業、予約に関する詳細はこちら

ミュージアム+アーティスト共同プロジェクト・スペース

本スペースは、本展実現までのプロセスにおいて、作家と美術館の間でさまざまに生じた立場や見解の相違をきっかけとし、多様な観点からの議論を発展的に深めることを目的とした場所です。以下の作品の展示に加え、アーティストと現代美術館の関係、現代美術の可能性と限界の歴史、表現の自由や美術館の芸術的独立性など美術にまつわる課題からその背景にある幅広い社会課題まで、本展の制作過程で議論してきた問題について多様な専門家を招いて語っていただきます。

展示作品
《スーパーラット(千葉岡君)》(2006年)、映像作品《スーパーラット》(2006/2011年)、Chim↑Pom from Smappa!GroupのコミッションによるEDI MAKの映像作品《ハイパーラット》(2022年)。
※トーク、プログラムの詳細は決まり次第、ウェブサイトでご案内します。

本スペース鑑賞のお申し込み方法はこちら

基本情報
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