2016年11月 8日(火)

デジタルアートは、他人との境界をあいまいにし、共感の場を提供できるのか
「宇宙と芸術展」シンポジウム「科学者と読み解く『宇宙と芸術展』」レポート#4

8月20日、「宇宙と芸術展」(~2017年1月9日まで)関連イベントとして、シンポジウム「科学者と読み解く『宇宙と芸術展』」を開催しました。
レポート第4回では、チームラボ代表である猪子寿之氏によるレクチャーの様子です。

チームラボはウルトラテクノロジスト集団を自称し、代表の猪子氏を中心として各種プログラマーやエンジニア、数学者、建築家、Webデザイナー、グラフィックデザイナー、3DCGアニメーター、カタリスト、編集者など、情報社会の様々な分野のものづくりのスペシャリストから構成されています。その領域は幅広く、コマーシャルな作品からアートまで多様な活動を行っています。
本展出展作《追われるカラス、追うカラスも追われるカラス、そして衝突して咲いていく - Light in Space》は、4×13×9メートルの空間が宇宙の映像で覆われ、八咫烏(ヤタガラス)が疾走し、観客は宇宙遊泳のような浮遊感を体験することができるインタラクティブなインスタレーションです。神武天皇を大和の橿原(かしはら)まで案内した八咫烏は、太陽の化身でもあり、時折、互いに衝突したり、観客に衝突することで色とりどりの花――すなわち生命――を咲かせます。

猪子氏は、まず本展の出展作の理想的な見方についてレクチャーしました。本作では作品の視点と観客の視点が合うようになっているので、日本人には難しいかもしれないが、集団で観る時も限界まで顔と顔をくっつけて観てほしい、そのようにすると床と壁の境界なども無くなったイメージを楽しめるということです。
猪子氏は、作品制作に当たり宇宙を常に意識している訳ではないそうですが、本展のみならず、お台場で開催されていた「DMM.プラネッツ Art by teamLab」(2016年7月16日-8月31日)も宇宙を意味するタイトルになっていました。そこに出展していた《Wander through the Crystal Universe》では、どこに自分がいるのか分からない無限に広がるような空間を表現しており、自身もどこにいるのかが分からなくなることが多いそうで、そのあたりも作品として繋がっているのかもしれないとのこと。

さらには作品には宇宙系のタイトルが多いことに猪子氏自ら気付き、改めて「実は宇宙に興味があるのかもしれないですね」と笑いながら語られました。「DMM.プラネッツ Art by teamLab」に出展している《Floating in the Falling Universe of Flowers》は、寝そべって観るようになっていました。それは、大地に身をゆだね、立つという行為が要求してくる自意識が無くなった状態で作品の中に浮き、身体がゆっくりと回転するように感じる中で、隣の人も回転していて、やがて隣の人との境界がなくなっていくような身体感覚が、精神状態のリラックスに繋がる効果を持っているそうです。
さらには世界遺産である京都の下鴨神社(賀茂御祖神社)の500メートルもある参道、糺の森で行った大型のインタラクティブなインスタレーションでは、参道沿いの木々がライトアップされ光り輝き、人々が近くを通ると、光の色を変化させ色特有の音色を響かせる。そして、その木の光は、音色を響かせながら、次々に隣の木に伝播させ、連続して広がっていくものだといいます。


猪子寿之氏

猪子氏は最後に、「宇宙は境界や方向、上と下みたいな概念がなく、有限性もありません。デジタルの世界も、宇宙的、高次元でアーカイブされた境界がないものだと思います。アートは自分にとってある種、世界の抽象化なのかもしれません。アートと鑑賞者の境界、アート空間で他者と自分の境界があいまいになったり、自己があいまいになったりする。そういう状態になった時に、人はなぜかそれを古代から『宇宙』と呼んでみたり、宗教的な体験、幸福感であったりするのかもしれません。これまでは境界が強すぎて、それは物質がそうさせたのかもしれないし、近代というものが自己の概念を強くさせていたのかもしれないのです。」と語りました。
テクノロジーが境界のない宇宙的な世界やあり方を提示する可能性を、チームラボは探っていることがうかがえるレクチャーとなりました。

文:椿 玲子(森美術館アソシエイト・キュレーター)
撮影:御厨慎一郎
 

<関連リンク>

宇宙と芸術展:かぐや姫、ダ・ヴィンチ、チームラボ
会期:2016年7月30日(土)-2017年1月9日(月)
・「宇宙と芸術展」シンポジウム「科学者と読み解く『宇宙と芸術展』」レポート
#1 科学技術が、芸術のような感動と共感を得るには、何が必要なのか?
#2 宇宙像はパラダイムシフトによって常に刷新されていく
#3 芸術とは魂を満たすものであり、昔から人間にとって重要だった?
#4 デジタルアートは、他人との境界をあいまいにし、共感の場を提供できるのか
#5 「宇宙と芸術」の可能性は?

カテゴリー:03.活動レポート
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