2013年7月16日に行われた森美術館メンバーシップ限定のMAMCナイトでは「LOVE展スペシャルトーク 村山留里子」と題したスペシャルイベントを開催しました。カラフルに染色された布を用い、独特の表現を追求するアーティスト・村山留里子さんをゲストに迎え、「LOVE展」担当キュレーターのひとりである荒木夏実がその創作の秘密に迫りました。
ゲストは「LOVE展」出展アーティストの村山留里子さん
布やビーズ、レースやリボン、キラキラしたアクセサリー。"奇麗なもの"を凝縮させるように縫い集め、作品を構築していく独特の感性が国内外から注目されている村山留里子さん。秋田県に生まれ、2000年代は東京を中心に活動していましたが、現在は再び故郷秋田に戻り、活動を続けています。
現在開催中の「LOVE展」では、「セクション5:広がる愛」に作品を展示しています。縦・横4.5メートルに及ぶカラフルな布の作品《無題》(2008)、キラキラと美しいものが壁状に連なる《無題》(2013)、そしてこれまでの作風からまったく離れた写真による作品《抱擁》(2013)、の3作品です。
これら3作品は、現在の村山さんを理解するためのキーとなるものです。何を感じ、どう表現を行ってきたのか、出身の秋田の環境なども含めて語られる創作の秘密は、ほかでは聞けないことばかりでした。その一部をご紹介します。
「LOVE展:アートにみる愛のかたち」展示風景
左から、村山留里子《抱擁》(2013)、《無題》(2013)、《無題》(2008)
撮影:木奥恵三
《無題》2008 について
村山さんを一躍有名にした作品です。細かくカットされた布が無数に縫い合わされてできています。制作の背景を、村山さんはこう語ります。
「白地の絹を反で買ってきて、まず数千枚に細かくカットするんです。それを煮染めしたあと、少しずつはぎ合せ、ピースにしていく。それをまた切って、縫って、切って、縫って。色をどんどん増殖させていきます。この作品に取りかかるときには、新しいミシンで臨むのですが、作業が終わるころにはたいてい壊れてしまいます。手も腕もずいぶん疲れて、痛みが出ることもあるんですよ。」
《無題》2013
村山さんの代名詞ともいえる「奇麗の塊」シリーズに連なる作品。キャンバスにおびただしい数のリボンやビーズ、造花などが縫い合わせられています。
「これまで、『奇麗の塊』シリーズは立体ばかり作っていたのですが、初めての平面作品です。使用する素材はいつでも探し集めています。買い物をしていて、"これは使える!"と感じたらその場で買います。そういった出会いもすべてご縁だと思うから」と村山さん。
《抱擁》2013
写真の女性は、実は村山さん自身。装飾性が特色ともいえるこれまでの作風から一転、身にまとうものをすべてはぎとった男女の抱きあう肉体が表現されています。今回の「LOVE展」のために作られた新作です。
「この作品のプランをお話ししたとき、荒木さんが"やってみたら"と言ってくださったことに感謝しています。この作品で、新しいステップに進むことができました。」
そう語る村山さんの目には、一瞬、涙が浮かびました。この作品を完成し、気づいたことがあるといいます。
「私の作品は、どれも"体"がキーワードであり、"体にまとわりつくもの"がテーマです。衣服も布も、体と連動するものです。論理的には話せないのですが、私の中でこの作品は、これまで私が追求してきたこととなんら変わらないものです。今回の展覧会が"LOVE"をテーマにすると聞いたとき、真っ先にイメージされたのが男女の抱擁でした。それを素直に作れたことが、うれしいのです。」
村山留里子(アーティスト)
新境地へと進み始めた村山さんの作品について、荒木はこう話します。
「この作品の構想を聞いたとき、正直言って驚いたんです。しかし出来上がったものを見て、私は村山さんらしさを強く感じました。布の作品《無題》(2008)も、綺麗の塊《無題》(2013)も、村山さんの作品は肉体的な力を激しく使って作られている。途方もない量の布を切り、染め、縫い、多くの素材を扱うにはたくましい肉体が必要なはず。私は村山さんがいかにこれまで正直に自身の体に向き合い、作品を作ってこられたのかがわかった気がしました。」
荒木夏実(森美術館キュレーター)
作品の解説のあとは、子どものころからの写真を1枚1枚紹介しながら、村山さんがたどってきた道のりを振り返りました。お母様手作りの帽子やワンピースを着て満面の笑みを浮かべる少女時代。部活動の陸上に夢中だった中学・高校時代。手作業の楽しさに目覚め、地域の工芸家の方々とともにろうけつ染めを学び始めた10代後半。なんとなく手を動かしたら自然にできていたという、初めての「奇麗の塊」。村山さんのこれまでを語る数多くの写真を前に、荒木はこう言います。
「村山さんの作品は、工芸とも、いわゆる美大で学んだ美術とも違う。とてもユニークな作品を作る制作者であり、その創作の背景には非常に素直でまっすぐな視線があるのだと、今回改めて思いました。」
村山さんの作品への理解が深まった、意義のある一夜でした。
トークイベントの様子
MAMCでは、アーティストによる貴重なトークイベントをはじめ、アニュアルカクテルパーティーなど、メンバー限定の様々なプログラムを用意しています。単に美術を鑑賞するだけではなく、アートファン同士の交流を深め、また、同時代に生きるアーティストの活動を応援し、アートの世界を盛りあげていくことを目的としています。MAMCメンバーには、美術館への自由な出入りはもちろん、森美術館が発信するさまざまなイベントや企画に参加できる機会が用意されています。
トークを終えて。村山留里子さんと荒木夏実
今回、MAMCナイトに参加してくださった方々にご感想を伺いました。初参加の方、すでにMAMC会員として様々なイベントに参加されている方。それぞれの楽しみ方をご紹介します。
まずは、MAMCナイト初参加という金谷真由美さん(大学生)。
「普段は聞けないお話をアーティスト自身から伺うことで、作品への理解が深まりました。1時間半にわたってじっくりとトークに耳を傾ける機会は、なかなかないのではないでしょうか。ご本人の人柄まで感じられ、解説だけでは決して見えてこないものが伝わってきました。」
続いて、森ビルのオフィスワーカー・プログラムを利用して、ゲスト参加をされた林勝明さん(会社員)。
「作り手が何を思い、なぜ作品を作るのか、というテーマは常に興味深いものです。話し方から、その人の人となりを感じることができる生のイベントは、密度の濃い発見に満ちていました。プライベート感のある雰囲気も贅沢。トークイベントのあと、ゆったりと展示を見られるのも非常に魅力的です。」
森美術館に頻繁に訪れているというMAMC会員の国枝奈々さん(大学生)。
「毎年、どこかひとつの美術館を軸にして、集中して展覧会やイベントを楽しむという試みを個人的に続けています。今年は森美術館をテーマにし、MAMC会員になりました。講演会などにも月1回以上の頻度で訪れ、展覧会には月3回以上来ています。村山さんの作品は、今回の『LOVE展』で初めて拝見しました。ご本人のお話を聞く前と後では、ずいぶん印象が変わりました。内面の葛藤が、作品にこのような表れ方をするのですね。」
MAMCはアートをより深く体験するためのメンバーシップ・プログラムです。
アートの世界に飛び込めば、アートは見るだけのものから体感するものへと変わります。
アートを自分自身の経験として味わいながら、理解を深めてみませんか。MAMCに参加すれば、新しい発見がきっとあります。
文:濱野千尋
撮影:御厨慎一郎
<関連リンク>
・六本木ヒルズ・森美術館10周年記念展
「LOVE展:アートにみる愛のかたち-シャガールから草間彌生、初音ミクまで」
2013年4月26日(金)-9月1日(日)
・MAMCナイト「会田誠 スペシャルギャラリートーク with 鶴田真由」(Blog)