池上彰さんが解説する、宗教、外交、政治など、これまで知っていたようで良く知らなかったアラブ世界。「アラブ世界とはどこなのか」「イスラム教って何?」「中東問題の原因」など素朴な疑問を紐解くことで、本当のアラブの姿が見えてきます。アラブを理解してから「アラブ・エクスプレス展」を見ると、「なるほど!」と思えるポイントが満載です。
2012年6月18日(月)にアカデミーヒルズで開催された六本木アートカレッジセミナー「池上彰が紐解く、アラブの今と未来」の様子をレポートします。
スピーカー:池上彰(ジャーナリスト/中東調査会会員/東京工業大学教授)
撮影:御厨慎一郎
Photo: Mikuriya Shinichiro
第1章 まずはアラブ世界とイスラム世界と中東の違いを整理しましょう
池上彰:先日、森美術館で観た「アラブ・エクスプレス展」は、私たちがアラブ世界に対して抱いているイメージと、今のアラブ世界は全然違うということがわかる、とてもおもしろいものでした。
(※「アラブ・エクスプレス展」は2012年10月28日まで開催中)
きょうはこの展覧会にちなんで「そもそもアラブ世界って何だろう?」ということを基礎の基礎からお話ししたいと思います。多くの方が、アラブ世界とイスラム世界と中東をごっちゃにしているようですので、まずは「アラブ世界とイスラム世界と中東は違う」という話から参りましょう。
(※Googleマップを参照しながら読むと、さらにわかりやすくなります。)
撮影:御厨慎一郎
Photo: Mikuriya Shinichiro
アラブ世界とは、端的に言うと「アラビア語を話している人たちがいるところ」のことです。ですので、北アフリカもアラブ世界です。アラブ人は「アラビア語を母国語とする人」のことです。アラブ人は中東にもいますが、中東以外にもたくさんいます。「アラブ人はみんなイスラム教徒か?」というと、そうではありません。アラブ人にもキリスト教徒が大勢います。
では、イスラム世界とは何でしょうか? 世界で一番イスラム教徒がいる国はインドネシアです。インドにも1億人近いイスラム教徒がいます。イスラム世界は、北アフリカから中東、そして東南アジアまで、非常に広い世界なのです。
そもそも中東とは、イギリスの都合でそう呼ばれるようになったところです。かつてイギリスは、インド、パキスタン、バングラデシュ、スリランカを植民地にしていました。ですからイギリスにとって東はインドで、ここが基準になります。インドより極端に東が「極東」で、中くらい東が「中東」というわけです。
中東にはパレスチナと呼ばれる地域があります。第二次世界大戦後、ヨーロッパで迫害されたユダヤ人たちが大勢移り住んできて、そこにイスラエルという国をつくりました。ですからここにはユダヤ教徒が大勢住んでいます。ユダヤ人でユダヤ教を信じている、つまりアラブ世界でもなければ、イスラム世界でもない人たちが住んでいるのです。北側のレバノンには、キリスト教マロン派の人たちが大勢住んでいます。ですから中東にはキリスト教世界もあります。
私たちはつい「アラブ世界=イスラム世界=中東」と思ってしまいますが、この3つは全く別ものなのです。
続きはアカデミーヒルズのサイトでお読みいただけます。
<各章のリンクはこちら>
第1章 まずはアラブ世界とイスラム世界と中東の違いを整理しましょう
第2章 キリスト教は、言わばユダヤ教の改革版
第3章 イスラム教は、ユダヤ教とキリスト教の流れを汲む
第4章 イスラム世界のスンニ派とシーア派が対立する理由
第5章 中東問題とは?
第6章 イギリスの三枚舌外交がアラブ世界をごちゃごちゃにした
第7章 本当にFacebookがジャスミン革命を引き起こしたのか?
第8章 アラブ世界に広まる民主主義のジレンマ
第9章 【番外編】池上彰が観た「アラブ・エクスプレス展」
<関連リンク>
・「アラブ・エクスプレス展」
会期:2012年6月16日(土)~10月28日(日)