森美術館では「とびだす学校ツアー」という、学校の授業の一環として展覧会をご覧いただくツアーを行っています。
今回は港区立三光小学校4年生の授業を取り上げ、その様子をご紹介します。
「イ・ブル展」をリソースとしたちょっとユニークな授業が行われました。展示室に入り、天井から吊るされたソフト・スカルプチャーの迫力に驚くこどもたち。よく見ると手足を通す穴が開いていて、これが衣装でもあることに気づきます。イ・ブルのパフォーマンス映像を見て、「なぜ着て街を歩いたの?」。《モンスター》(黒)にはドライフラワーも使われており、木の根っこや動物の象を連想する子もいました。その他にも「刺繍が細かくてすごい」、「ネックレスや宝石のよう」など次々に意見が生まれます。
「〈わからない〉作品にも自分なりの意味を持って。一番好きな作品を見つけよう!」と先生。
これは、港区立三光小学校4年生43名が「イ・ブル展」を鑑賞した時の様子です。初めての美術館見学に緊張気味のこどもたちでしたが、展示室に入ると友達と話しながら様々なことを発見していました。同校の笠雷太先生が考えた授業コンセプトは極めてシンプルでユニークなもの。「高学年になる前に、想像を超えた<わからないもの>を見せたい。それを彼らなりに解釈し、言葉にしてみてほしい。」アートを理屈からではなく、空間や作品世界を身体で感じさせたいというアイデアは、本展に相応しいと感じられました。こどもたちは事前授業で、りんごなどの知っているものや、カンディンスキーの絵のような一見〈わからないもの〉を見ながら話し合ったそうで、一つの流れの中に見学が位置づけられていました。
こまかな細工や鮮やかな色の作品に注目するこどもたち。
見かた、感じ方はいろいろ。だから面白い。
ガラスや鏡、ビーズなどが、イ・ブルの手にかかれば不思議な作品に変身。
次々に生まれる現代アートや、新たな物事に出会うとき、私たちは既知の価値観では理解できない〈わからないもの〉に戸惑いますが、好奇心を持って関わろうとすればそれは素敵な刺激となり、新たな世界を知る喜びを得ることができます。戸惑いは自分の考えを拡大するチャンスでもあるでしょう。韓国の女性作家イ・ブルの制作姿勢、思想哲学から着想した豊かなイマジネーション、究極の美の概念を問う不完全な身体・・・。その思考と人生を体現した本展は複雑さに満ち、こどもたちの理解の及ばない要素もあるかもしれませんが、イ・ブルとの出会いは記憶に残り、将来再び思い出してくれるのでないかと期待しています。
イ・ブルは作品にどんな気持ちやメッセージをこめているのかな。
作品を囲んでの対話は尽きません
森美術館が立地する港区には30館が加盟する「港区ミュージアムネットワーク」があります。2011年の教育研究会では美術館と小学校との連携授業が紹介されました。美術館も先生も互いに忙しい中で丹念な準備が重ねられ、充実した授業を生みだす工夫に富んでいました。また、荒川区立第五中学校では春休み前、「ミュージアム特派員レポート」という試みを実施。美術科の大黒洋平先生が生徒たちだけで行ける幾つかの美術館を授業で紹介し、生徒は期間中に友達と一緒に出かけるというもの。森美術館にも数名が来館してくれました。形式にとらわれず、展覧会が学校に活用される機会が増えていけばと感じています。
文:白濱 恵里子(森美術館学芸部パブリックプログラム エデュケーター)
<関連リンク>
・「イ・ブル展:私からあなたへ、私たちだけに」
会期:2012年2月4日(土)~5月27日(日)
・設営風景「イ・ブル展:私からあなたへ、私たちだけに」(flickr)
・「イ・ブル展」アーティストトーク2012/2/4(flickr)
・展示風景「イ・ブル展:私からあなたへ、私たちだけに」(flickr)
・「イ・ブル展」はこうしてつくられた!
普段見られない舞台裏に潜入したフォトレポートをご紹介します。(Blog)
・パブリックプログラム(教育普及活動)のアクティビティ紹介
先生のためのツアー:「イ・ブル展」をどう観賞授業に生かすか?