《来るべき世界に》2004(手前)、《さかさまの日の丸》2006(奥)、撮影:木奥恵三
沖縄出身でニューヨーク在住の照屋さんは、2004年に沖縄で起きた米軍ヘリ墜落事件を受け、《来るべき世界に》というピザボックスの作品を制作しました。なぜピザの箱なのか――、「六本木クロッシング2010展」の会場で作品を前にお話しいただきました。
照屋:ピザボックスの作品《来るべき世界に》は、2004年に沖縄国際大学に在日米軍のヘリコプターが墜落した事件をもとにつくったものです。
箱の裏に書いてあるテキストは、ニューヨークタイムズの記事です。「事件が起きて大学の校舎は海兵隊によって封鎖され、住民はもちろん、警察や地元の政治家も誰も入れなかった。しかし、ピザの配達だけは入場を許された」というエピソードが紹介されています。
滑稽な話だと思うのですが、ひょっとしたらそんなところに問題を解決する糸口があるんじゃないかと思ったんです。ピザの配達が政治の話をかいくぐってある到達地点に行けたというこの出来事と、事件現場をどう解釈したらいいのかという問い掛けが重なって、こういう作品になりました。
いくつか箱のフタが開いていて中の絵が見えますが、実はフタが閉まっているものにも絵は全部描かれています。絵は事件現場で開いたスケッチ大会に参加した小学生から大人まで、総勢100名以上の方が現場で見たこと、感じたことを描いてくれたものです。墜落現場となった沖縄県宜野湾市(※編注:ぎのわんし,普天間基地所在地)の伊波(洋一)市長さんも家族で参加して、切り倒された株を描いてくれました。政治的な立場や責任、思想といったものから一瞬解放されて、現場で感じたものを共有できたんじゃないかと思います。
こうした作品を美術館で展示するということは、とても大事なことなんです。それは個人の意見というものが反映される場所が、美術館にちゃんと守られているということですから。個人の意見はささやかかもしれませんが、ちゃんと観る場所が用意され、観る人が確保される――それが"生ける美術館"だと思います。
作品の解説をする照屋さん
この作品は美術教育のことも少し意識しています。事件は夏休みの真っ最中に起きたのですが、もし僕が小学生で夏休みの課題に「風景画を描いてくること」というのがあったら、サバニ(舟)のある港とか海とか、いわゆるきれいな沖縄を描いたんじゃないか、お利口さんな絵を描いたんじゃないかと思うんです。今、美術を勉強していて大切に感じているのは「現実をどう表現するか」ということです。目の前の現実から目を背けずに、いかに観察するか。そういうことも考えながら、小学生を中心にスケッチしてもらいました。
会場からの質問:どうしてフタが開いているのと開いていないのがあるんですか? もし僕が絵を描いた子どもだったら、観に来て開いていなかったらがっかりするんじゃないかと思って......。
照屋:すみません(笑)。本当におっしゃる通りで、できれば全部見せたいです。今回はスペースの都合もありましたし、全部を見せることで逆に失われるものもあると考え、作品全体の印象を大切に、色を考えて開ける箱を選びました。もし次に展示する機会があれば、そのときの状況に合わせて全部見せるとか、一枚一枚をちゃんと見せる記録本のようなものを用意しておくなどしたいです。
それから、スケッチしてくれた人たちに、あのときの絵が東京で、森美術館でみんなに観られているということも伝えたいですね。これもできていないので、課題はまだまだたくさんあります。ですのでこの作品は完成形じゃなくて、将来、最終形をちゃんとつくりたいと思っています。
【照屋勇賢プロフィール】
てるや・ゆうけん――沖縄生まれ、ニューヨーク在住。紙や布や木など身近なものを素材に、現代社会の諸問題に言及しながらも、独自の想像力やユーモアを込めた、多義的な作品を制作。「六本木クロッシング2010展」出品作は、《来るべき世界に》(2004年)、《告知―森》(2005、2010年)、《さかさまの日の丸》(2006年)、《Rain Forest》(2010年)。最近の作品に、ニューヨークの移民に沖縄出身の出稼ぎ労働者を重ね合わせたヴィデオ・インスタレーション《儲キティクーヨー、手紙ヤアトカラ、銭(ジン)カラドサチドー》(2008-)など。
※ この記事は2010年3月20日に開催した「六本木クロッシング2010展:芸術は可能か?」のアーティストトークを編集したものです。
<関連リンク>
・照屋勇賢アーティストトーク(前編)
「紙袋が「いまも木である」と告げている 」
・森美術館フリッカー
今回のアーティストトークの模様をアップしています
来館した 出展アーティストの写真はこちら
照屋さんの <告知-森>シリーズはこちらからも見れます
・「六本木クロッシング2010展:芸術は可能か?」
会期:2010年3月20日(土)~7月4日(日)