「六本木クロッシング2010展」誕生の背景には、担当キュレーター3名の、また日本各地のアートシーンの「交差」もあります。森美術館アソシエイト・キュレーターの近藤健一の呼びかけで日本の東西から集ったのは、窪田研二さんと木ノ下智恵子さん。「明日に挑むアート」を発信する展覧会の誕生を支えた、彼らの想いについて聞きました。
窪田研二さん(左)、木ノ下智恵子さん(右)
――展覧会の屋台骨とも言えるキュレーターの皆さんのお仕事についても、お話を伺えますか。
近藤:窪田研二さんは水戸芸術館現代美術センターご出身で、現在は独立キュレーターとして国内外で展覧会に関わっている方です。また木ノ下智恵子さんは神戸アートビレッジセンターでご活躍された後、現在は大阪大学で教壇に立ちつつ、様々なアート企画をプロデュースしています。
窪田さんは、水戸芸術館で担当なさった展覧会で、いくつか私が大好きな展覧会があったのが、今回ご相談した直接のきっかけですね。木ノ下さんは、関西のアーティストたち、特に若い才能をずっと観てきているという点で、お声掛けしました。
――ご自身の呼びかけで、東西の切れ者キュレーターが顔合わせしたという感じでしょうか。出展アーティストも、京都のダムタイプをはじめ東西いずれからも参加していて、「日本の東西アートのクロッシング」という側面もあるような?
近藤:確かにそうですね。東京だけが日本のアートシーンではありませんから。ただ、結果的には木ノ下さんだけが西日本のアーティストを選んでいるわけでもないんです。もちろん彼女の知識やネットワークは大変心強いものでしたが、彼女から「関西の人を推薦するだけの役割でなく、3人で一緒に企画全体を作って行ける形であればぜひやりたい」と提案してもらったんです。
そこで、まずコンセプトを皆で練ってから(インタビュー第1回、第2回参照)、その後にそれぞれが作家さんを挙げていくことになりました。そのせいか、出展アーティスト候補を挙げた際には、期せずして3人とも推していた作家さんもかなりいたりして面白かったですね。
出展アーティスト米田知子さん(右)と作業の確認をする木下さん(左)
――中でも、このインタビューの初めの方でも話題に上ったアーティストグループのダムタイプは、皆さんの話し合いのごく初期に「出展してほしい」と意見が一致していたと聞きました。展覧会では、最終パートで彼らの映像が上映されるとのことですね。
近藤:今回は「S/N」という1994年初演のパフォーマンス作品について、その記録映像を上映します。この作品は、古橋さんがHIV感染をカミングアウトしたことを契機に生まれたものです。エイズ、セクシャリティ、ジェンダー、ナショナリティなどの問題がちりばめられていて、社会へのメッセージ性が非常に強い作品です。
ダムタイプの「S/N」は、今回の5つのキーワードにすべて当てはまる存在でもあります。つまり、いまお話した通り社会への言及を行っていること、絶えずコラボレーションをして作品を生み出していること、美術/デザイン/建築/映像などクロスジャンルのメンバーから成っていること、ホワイトキューブというものと関係なく活動を行ってきたこと、また独特の美意識を持って作品を作り続けていること。
そういう意味でも、私たち3人のキュレーターが展覧会の方向性を決める上で、ダムタイプの存在はとても重要な意味を担ったと言えます。
撮影:木奥恵三
《次回芸術とはコミュニケーション:観衆と作品の「クロッシング」へ続く》
<関連リンク>
・連載インタビュー:2010年の日本、「芸術は可能か?」(全6回)
第1回 混迷の時代にこそ真価が問われる「アートにできること」
第2回 明日に挑む日本のアート:クロッシング=交差に迫るキーワード
第3回 「不完全の映像美」八幡亜樹さんと「一体感アート」加藤翼さん
第4回 「路上発」HITOTZUKIと「変換アート」宇治野宗輝さん
・「六本木クロッシング2010展」
会期:2010年3月20日(土)~7月4日(日)