ベトナム戦争をテーマにさまざまな角度から戦争を捉えようと試みるディン・Q・レのアジアにおける初の大規模個展「ディン・Q・レ展:明日への記憶」(~10月12日まで)。関連プログラムとして、ベトナムを良く知るためのレクチャーシリーズ(全2回)を企画しました。その第1回目では、メディア戦争ともいわれたベトナム戦争で従軍取材をした石川文洋さんの「カメラを通して見たベトナム戦争」を2015年8月29日に開催しました。
レクチャー中の石川文洋さん
現在77歳、沖縄県出身の石川文洋さんは、今から51年前の1964年8月に初めてベトナムを訪れ、1965年1月から68年12月までの4年間をベトナムのホーチミン市(旧名:サイゴン)で過ごしました。帰国後は朝日新聞社を経て、現在はフリーの報道写真家です。
プログラムの最初に、本展の感想のお話があり、一番印象に残った作品は、写真が海のように床一面に敷き詰められた《抹消》とのこと。「私はカメラマンのせいか、あれを全部見てみたいと思いました。ベトナムの人は写真が好きで、あの写真には、それぞれの人の歴史があるように感じました。」と石川さん。当時のベトナムにあった写真屋さんには、作品のような写真がたくさんあったそうです。
《抹消》の作品紹介はこちら
続いて、ご自身が執筆した本に沿ってベトナム戦争にいたるまでの歴史について説明がありました。
著書「ベトナム・ロード」を手に語る石川さん
ベトナムは、陸続きである中国から過去に多くの侵略を受けており、現在でもハノイ、ホーチミン、フエなどの大きな通りには、当時中国と戦った英雄の名前が多く使われていることや、フランスの統治下にあった時代、ベトナム戦争への本格介入のきっかけとなった1964年8月に北ベトナム軍とアメリカ海軍との間で起こった武力衝突、トンキン湾事件までを話していただきました。
レクチャー会場の風景
そのあとは、石川さんが撮影した写真を紹介。ベトナム海兵隊員たちや、村が破壊され農民が苦しんでいる様子、ナパーム弾により広い範囲を焼き尽くされた場所、子供を抱いて逃げている母親などベトナム戦争中の生々しい瞬間がとらえられています。「自分と仲が良かった南ベトナム兵たちが、敵の解放軍兵士を残虐に扱うのをみました。戦場は人格を変えてしまいます」と石川さんは語ります。
メディア戦争ともいわれたベトナム戦争で従軍取材中に、石川さんも身の危険を感じたこともあったようです。ベトナム戦争では、カメラマン約80名(うち、日本人カメラマン14名)が亡くなられたという報告もありました。
「戦争を防ぐには、戦争の悲惨さを知らなければ」とメッセージ
その一方で、今年行われたベトナム戦争終結40周年のパレード風景や1991年から石川さんが取材している枯葉剤の影響で先天性障がいをもった子ども達、60年代に初めてベトナムを訪れたときのものや、現地の市場の写真など、色々な角度から捉えたベトナムを見ることができました。それらには石川さんが報道写真家として伝えるべきことや、ベトナムへの思いが集約されていました。
トークの最後に、「戦争経験者が減少してきている今、戦争の実態を知らない人ばかりが政治を行っています。それでは戦争を防ぐことができない。戦争の悲惨さを知らなければなりません。」と語った石川さん。
戦争と平和について、そして、ベトナム戦争終結から40年、報道写真家、ジャーナリストが行うべきこととは、わたしたちが彼らへ求めるべきものは何かを考えさせられたプログラムでした。
熱心にメモを取る参加者
石川文洋さん
文:横山佳世子(森美術館 パブリックプログラム コーディネーター)
撮影:御厨慎一郎
<関連リンク>
・「ディン・Q・レ展:明日への記憶」トークセッション第1回「ベトナム現代アートをめぐって:戦争から今日まで」
レポート 戦争、写真、ベトナムの現代美術について
→前編
→後編