本展を紐解く3つの鍵
国内の芸術祭や展覧会で活躍するアーティストユニット、目による新作大型作品《景体》や、現代の情報社会のあり方を批評的に表現した飯川雄大の《デコレータークラブ》など、さまざまなジャンルのアーティストが日本の「いま」を映し出します。
[1]テクノロジーをつかってみる
扱うには専門的な知識や経験が必要とされる最新のテクノロジーですが、アーティスト達は最新の技術や理論を独自の方法で使い、これまでにない実験的な作品や表現を創り出します。森永邦彦が率いるファッションブランドのアンリアレイジは、東京大学の川原研究室とコラボレーションし、人の体温で形状が変化する、低沸点液体を使った新しい服のあり方を提案します。平川紀道の《datum》は、ありふれた風景画像を独自のアルゴリズムで変換することで、数学理論的に考え得る多次元空間を表現しています。林千歩の映像作品《人工的な恋人と本当の愛》は、最新のテクノロジーを直接用いているわけではありませんが、人間の短所や情けない性質を備えるAIロボットのユーモア溢れる愛の物語を描くことで、AIや人工生命の最先端の研究と同じように、私たちの生命や人間性の定義について考えることを促します。
[2]社会を観察してみる
社会学的な視点から世の中や身の回りで起こっていることを観察することで、そこに潜む事実やまったく新しい発見を導き出すアーティストの視線に注目します。竹川宣彰の《猫オリンピック:開会式》は、猫たちが無邪気にスポーツの祭典に興じる愛らしい様子を通じて、東京オリンピックに沸く現代日本を普段とは違う視点から考えるきっかけを与えてくれます。田村友一郎の《MJ》は、マイケル・ジャクソンが来日した時のエピソードに着想を得て、現代のポップカルチャーに潜むカリスマや神聖化されるアイコンに迫っています。榎本耕一の絵画は、神話から史実やポップカルチャーを混合したハイブリッドで軽快な作品で、その激しい表現の中には、生きることや何気なく受け入れている日常に対する真摯な視線を感じることができます。
[3]ふたつをつないでみる
アーティスト達は、思いもよらないものを繋げてみることで、新しい視点を提示し、これまでにない価値を作り出すことができます。万代洋輔は、不法投棄されたゴミなどを組み合わせて、神々しいオブジェを作ります。それを被写体とした写真は、俗と聖が混在する不思議で魅力的な作品となっています。青野文昭は、古く使えなくなった車や家具など様々なものを組み合わせて、新しい生命力を秘めるような彫刻作品を作ります。ものを直すという行為が、本来の物そのものとはまったく別の新しい物質、新しい価値を生み出しています。