日本人とオーストラリア人のユニット、米谷健+ジュリア(1971年/1972年東京生まれ)による、ウランガラスとブラックライトを用い、緑色に光るアリの形を模した立体作品《生きものの記録》(2012年)を紹介します。オーストラリア北部、アーネム・ランドには、その大地を掘り起こすと地中から巨大な緑色のアリが出現して世界を踏み潰し破壊するという、先住民族アボリジニに伝わる神話「緑アリの教え」があります。しかしながら、1970 年代、彼らの反対を押し切りウラン鉱山開発が行われた歴史が存在します。未来への警鐘とも解釈できるこの神話や鉱山開発の経緯の調査を経て制作され、原水爆の恐怖に怯える男性を描いた黒澤明の映画「生きものの記録」(1955年)からタイトルを引用した本作は、ウランを燃料とした原子力発電や核兵器など、核に対する作家の問題提起であるといえるでしょう。
*作家は、グンウィングアン語族、その土地と、「緑アリの教え」を含む諸伝説に敬意を払います。
作品
米谷 健+ジュリア
米谷健、1971年東京生まれ。米谷ジュリア、1972年東京生まれ。
2009年に米谷健がオーストラリア代表の一人として参加した第53回ヴェネチア・ビエンナーレを機会にユニット活動を開始。近年の主な展覧会に、シンガポール・ビエンナーレ 2013、「最後の誘惑:米谷 健+ジュリアのアート」オーストラリア国立美術館(キャンベラ、2015年)、茨城県北芸術祭(2016年)などがある。