さわひらき(1977年石川県生まれ、ロンドン在住)は、キャリア初期から深層心理や夢、また記憶の領域に強い関心を抱いており、これまで現実と虚構が織りなす幻想的な映像作品を国内外の展覧会で発表しています。複数の映像を使ったマルチスクリーンによって巧みに構成された展示空間は、視覚的に鑑賞者を魅了しながら自身の身体性を意識させるものであり、人々の記憶と感情と感覚が絡みあう豊かな内的世界を表現します。
「MAMコレクション017」では、6チャンネルの映像インスタレーション作品《hako》(2007年)を紹介します。本作のタイトルである「はこ」は、心理療法の技法である箱庭療法に由来します。箱庭療法では、患者が自由にミニチュアや玩具を砂箱に配置することで、言葉では説明できない心の状態を立体的なイメージとしてつくり、無意識内に存在する自己治癒力を高めることを目的としています。本作では、人の気配がする住家、砂浜の観覧車、港の夜空に煌めく花火、深い森林に佇む神社などの映像が直立するスクリーンに投影されます。どこか親しみを感じさせるサウンドとともに、人々が記憶の深部に閉ざしてしまったようなイメージがシンクロ再生され、ひとつの情景へと統合されます。
本展では、《hako》の着想源となった箱庭療法の世界観を表現するために再構成されたバージョンを展示します。同時に、夢を喰う羊を描いたドローイングと、踊り子の残像を次々に重ね合わせてゆく映像作品もあわせて紹介します。それぞれの作品が共鳴し合うことで、無意識と意識、夢と現(うつつ)が交差する風景へと鑑賞者を誘います。
さわひらき
さわひらきはこれまでシドニー・ビエンナーレ(2010年)、リヨン・ビエンナーレ(フランス、2013年)、リボーン・アートフェスティバル(宮城県、2017年)、「第7回台湾国際映像展―ANIMA」(台北、2020年)などの国際展に参加。ナムジュン・パイク・アート・センター(ソウル、2014年)、金沢21世紀美術館(石川県、2018年)、ビンコム・センター・フォー・コンテポラリー・アート(ハノイ、2018年)、ナバラ大学美術館(スペイン、2019年)などの美術館で作品を発表。森美術館では「六本木クロッシング2016展:僕の身体、あなたの声」に参加。