「MAMコレクション013」では、アジアの異なる3つの都市で生まれ活動する3人のアーティスト、草間彌生(日本)、プラバヴァティ・メッパイル(インド)、ツァイ・チャウエイ(蔡佳葳)(台湾)の作品を紹介します。本展にて展示される作品は、どれも線を用いて表現されていますが、線を引くという行為は、何もないところに新しいものを造り出したり、何かを指し示したり、とらえどころのないものに形を与えたり、混然一体となったものを分類したりすることができるものです。それは人間が何かを考え、表現する、物やアイデアを生み出すための最も根源的な行為だといえるでしょう。
《インフィニティ・ネット》(2007年)は、草間の代表的なシリーズのひとつです。線が結びつき網となり、画面いっぱいに広がる様子は、草間の強迫観念を思わせると同時に、タイトルのとおり永遠も示唆しています。一方、メッパイルの作品は陶器のような質感のキャンバスに繊細な線画が金で描かれますが、金もまた、純粋性、富や力、そして永続するものの象徴として用いられてきました。ツァイの《円Ⅱ》(2011年)は、氷の上に墨で描かれた円が徐々に消えていく映像作品です。円を一筆で書いた円相は、真理や宇宙全体を表すとされていますが、墨が徐々に水に溶け、消えゆく様子は、移ろいゆくものの美しさや無常観も感じさせます。
3作家の作品に用いられている線は、その表情、技法、素材は様々ですが、どれも宇宙や精神世界などを思わせるものです。線を引くという一見とてもシンプルで、しかし根源的な行為が、私たちの思考をさらに開かれたものへと導いてくれるに違いありません。
草間彌生
1929年、長野県松本市生まれ、東京都在住。1993年第45回ベネチア・ビエンナーレに日本館代表として参加。森美術館で開催された「クサマトリックス」(2004年)の他、1998年のロサンゼルス・カウンティ美術館とニューヨーク近代美術館の共同企画による個展「ラブ・フォーエバー:草間彌生」を皮切りに、世界各地で大規模な個展を開催している。2011年から2012年にはテート・モダン(ロンドン)やホイットニー美術館(ニューヨーク)など欧米4都市を巡回する回顧展を開催した。
プラバヴァティ・メッパイル
1965年、インド、ベンガルール生まれ、同地在住。森美術館での展覧会「チャロー!インディア:インド美術の新時代」(2008年)、「ヨコハマトリエンナーレ2017」、「第21回シドニー・ビエンナーレ」(2017年)などに参加の他、世界各地の展覧会に参加している。
ツァイ・チャウエイ(蔡佳葳)
1980年、台湾、台北生まれ、同地在住。ロードアイランド・スクール・オブ・デザイン卒業、パリ国立高等美術学校大学院でのリサーチ・プログラムを修了。ポンピドゥーセンター・メッス(フランス)から森美術館へ巡回した展覧会「シンプルなかたち展:美はどこからくるのか」(2015年)参加の他、世界各地で幅広く活動している。