2016年11月 1日(火)

宇宙像はパラダイムシフトによって常に刷新されていく
「宇宙と芸術展」シンポジウム「科学者と読み解く『宇宙と芸術展』」レポート#2

8月20日、「宇宙と芸術展」(~2017年1月9日まで)関連イベントとして、シンポジウム「科学者と読み解く『宇宙と芸術展』」を開催しました。
レポート第2回では、国立天文台副台長・教授である渡部潤一氏によるレクチャーの様子をレポートします。

~渡部潤一「技術革新で広がり続ける太陽系の地平線」

渡部氏は、まず「宇宙と芸術展」の感想として、「的川先生のおっしゃっていた事が芽吹いていたように思える展覧会でした。」と言ってくださり、企画者としては何よりも嬉しいお言葉でした。
渡部氏は特にコペルニクスの『天球の回転について』やガリレオ・ガリレイの『星界の報告』、レオナルド・ダ・ヴィンチの天文学手稿などが一堂に会したことにも感動されたようです。


渡部潤一氏

多くの天文学本の著者である渡部氏は、天文学の発達と共に、私たちの宇宙像――とくに太陽系の像がいかに広がってきたかということを、分かりやすく解説していただきました。

例えば、16世紀までの惑星の数が5つ(水星・金星・火星・木星・土星)だった時代に、これら5つの惑星に太陽(日)と月を足して、7日の週(日・月・火・水・木・金・土)になったということ。肉眼で観測していた16世紀から、1609年、ガリレオ・ガリレイが製作した天体望遠鏡のお陰で、観測できる天体の幅が飛躍的に広がり、18世紀に天王星が見つかったこと。また19世紀には天体力学が発達して海王星が、さらに20世紀には天体写真技術の発達で冥王星が発見されました。すばる望遠鏡などによって、より遠くの天体観測が行われることで、太陽系の外縁部にも多くの天体あることが分かって来ました。さらに太陽系の惑星といわれていた冥王星よりも大きな小天体が見つかり、惑星の定義が必要になった、といったことが語られました。

渡部氏は、世界から7人の天文学者が招集された2006年の国際天文学連合・惑星定義委員会の一員として、惑星の定義案を策定されました。その中で惑星の定義は新たに「1:太陽の周りを回る。2:十分大きな質量を持つために自己重力が固体としての力よりも勝る結果、重力平衡形状※(ほぼ球状)を持つ。3:その軌道近くから他の天体を排除している。」と条件付けられたそうです。こうして冥王星は「準惑星」となり、今までの2つの区分「惑星と小天体」は、「惑星、準惑星、小天体」となったのです。


レクチャーの様子

さらに、太陽系外縁部がどうなっているかの調査も、観測技術の進歩によってどんどん進んできました。2003年には、2003 VB12という仮符号を持つ天体が見つかり、この天体の軌道を詳しく調べたところ、近日点(太陽に一番近くなる日)はなんと76天文単位(地球と太陽の平均距離を1とする長さの単位)、遠日点が約1000天文単位、周期は1万500年、直径1,700キロという途方もなく大きな軌道であることがわかりました。地球の10倍も大きい惑星の存在なども確認されつつあります。
つまり、私たちの宇宙像はどんどん広がっているのです。しかし、どんなに観測技術が進んでも全貌は把握できないということ、そして新しい発見は今までの常識を覆しパラダイムシフトを繰り返すものであることを渡部氏のレクチャーは教えてくれました。この続きは渡部氏と奥さまの最新著書『最新 惑星入門』(著:渡部潤一、渡部好恵、朝日新書)にて、より詳しく知ることができます。

※惑星が十分大きな質量を持ち、自分自身が作り出す重力により球状を形成している状態。

文:椿 玲子(森美術館アソシエイト・キュレーター)
撮影:御厨慎一郎
 

<関連リンク>

宇宙と芸術展:かぐや姫、ダ・ヴィンチ、チームラボ
会期:2016年7月30日(土)-2017年1月9日(月)
・「宇宙と芸術展」シンポジウム「科学者と読み解く『宇宙と芸術展』」レポート
#1 科学技術が、芸術のような感動と共感を得るには、何が必要なのか?
#2 宇宙像はパラダイムシフトによって常に刷新されていく
#3 芸術とは魂を満たすものであり、昔から人間にとって重要だった?
#4 デジタルアートは、他人との境界をあいまいにし、共感の場を提供できるのか
#5 「宇宙と芸術」の可能性は?

カテゴリー:03.活動レポート
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