2014年9月20日から始まる「リー・ミンウェイとその関係展:参加するアート―見る、話す、贈る、書く、食べる、そして世界とつながる」は、台湾出身のアーティスト、リー・ミンウェイの個展です。普通の展覧会とはちょっと違う展示を行う彼に、担当キュレーターの片岡真実が聞きました。
リー・ミンウェイ(右)と本展を企画した森美術館チーフ・キュレーターの片岡真実(左)
片岡真実(以下、片岡):リー・ミンウェイさんの展覧会は単に作品を見るだけでなく、観客が“何かをする”作品が多いのが特徴です。また美術館の外で人々を巻き込むプロジェクトもあります。そういった作品には交換すること、贈与、親密さなど、いろいろな要素があると思います。お金とアートとの関係を考えさせるものもありますね。
リー・ミンウェイ
リー・ミンウェイ(以下、リー):《マネー・フォー・アート》(*1)がいい例になると思います。10ドル札を折り紙のように折り畳んで手のひらに載るぐらいのオブジェにしたものです。お札でできた小さな彫刻のようなものですね。私はこれを9つ作ってカフェでたまたま会った、見知らぬ人々にあげる代わりに、電話番号を聞きました。半年から1年たってそれをどうしたか聞いてみたら、そのうちの何人かはその折り紙を開いて買い物をし、残りの人は折ったままの状態で持っていました。
このプロジェクトはシンプルに見えますが、とても複雑な要素を持っています。この“折り紙”はいったい通貨なのか、アートなのか、どちらなのでしょうか。
《マネー・フォー・アート》でとくに印象に残っているのは、あるホームレスの男性のことです。彼はいつも身ぎれいにして厚い本を持っていて、今では私のオブジェを14個、所有しています。この折り紙を開けば140ドルになるわけです。でも彼はそのオブジェで買い物をすることはなく、折り畳んだまま持ち続けているのです。彼はアート作品を所有していることをとても誇りに思ってくれています。
片岡真実
片岡:森美術館での個展に出品される《石の旅》もおもしろい作品です。リーさんがニュージーランドで拾ったきれいな石を11個持ち帰り、台湾でその複製を作り、それらが11組のペアになりましたよね。
リー:その作品を購入した人はある時点で、二つの石のうちのどちらかを捨てなければなりません。拾ってきた石は7千万年の歴史がある自然の産物、私が台湾で作った複製は人工物です。これは所有とは何か、価値とは何かを問いかける作品です。私が拾った自然の石と私が作った人工の石、どちらに価値を認めるのかという問題です。またどちらかを捨てることによって、決して安くはない対価で購入した作品を破壊することになる。でもそのことから、新しい“石の旅”が始まります。破壊が創造のきっかけになるのです。今のところ、誰も石を捨てた人はいないのですが、そのときに何が起こるのか楽しみにしています。
《石の旅》
2012年
展示風景:「花と石の物語」
エスパス ルイ・ヴィトン台北、2012年
撮影:Lee Studio
片岡:凧の作品《プロジェクト・女媧(ヌワ)》も「交換」という意味で興味深い作品ですね。お金を払って作品を手に入れたのに、それを所有し続けることはできない、というアートです。
《プロジェクト・女媧(ヌワ)》
リー:これは中国や台湾に伝わる民話がもとになっています。空に開いた大きな穴を女神が自らの身を犠牲にしてふさぎ、女神の子どもである私たちを守ってくれた、という話です。私のプロジェクトでは凧の作品を所有する人が凧を揚げて糸を切り、ヌワが空の穴をふさぐというイメージです。凧は飛んでいってなくなってしまう。でもヌワが空の穴をふさぐことで人々を助けることになり、豊かな感情と満足感で心が充たされることになるでしょう。これは作品を物理的に所有することと精神的に所有することとのジレンマに関するアートなのです。
片岡:リーさんのプロジェクトでは、お金と作品とを交換するところまでは普通のコレクターと同じですが、最後にはそれを手放さなくてはなりません。そして、特別な記憶だけが残ります。
リー:アートを所有するというと普通は絵画や彫刻などのオブジェを保有することになります。でも私はアートが何であるか、その精神や本質を所有することが大切だと考えているのです。
(*1)《マネー・フォー・アート》は本展に出品されません。
文:青野尚子(編集者/ライター)
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最新号の68号に、リー・ミンウェイ×片岡真実の対談記事を掲載しています。
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<関連リンク>
・スペシャル対談:リー・ミンウェイ×片岡真実
(1)“参加するアート”とは?
(2)「ギフト」を贈ることもアートになる
(3)観客が参加することで、さらに豊かになるアート
・「リー・ミンウェイとその関係展:
参加するアート―見る、話す、贈る、書く、食べる、そして世界とつながる」
会期:2014年9月20日(土)-2015年1月4日(日)
・「MAMプロジェクト022:ヤコブ・キルケゴール」
会期:2014年9月20日(土)-2015年1月4日(日)