2014年8月 5日(火)

先生は「ゴー・ビトゥイーンズ展」をどう見たのか
「学校と美術館のためのプログラム」レポート

学校や子どもたちに今、何が起きているのだろう――。学校と美術館が共に学び合う場、「学校と美術館のためのプログラム」を2014年6月7日に開催しました。子どもの視点を通して社会問題を考察する「ゴー・ビトゥイーンズ展:こどもを通して見る世界」を、日々子どもたちと向き合う先生方はどう見たのでしょうか。白熱したディスカッション・プログラムをレポートします。


展示風景「ゴー・ビトゥイーンズ展:こどもを通して見る世界」、森美術館、2014
撮影:阪野貴也

子どもをめぐる状況に焦点を当てる展覧会を開催する上で、学校と美術館の情報交換ができないだろうか。本展を準備していた担当キュレーターがそう語ったことをきっかけに、6月7日「学校と美術館のためのプログラム」を開催しました。公立や私立の小・中学校、高校、大学、インターナショナル・スクールから、図工・美術、国語、英語などを専門とする先生12名、本展の巡回先である名古屋市美術館、高知県立美術館の学芸員が参加し、少人数のディスカッション・プログラムを行いました。

先生方には事前のアンケートをお願いし、教育現場で感じている課題や関心のあるテーマを回答していただきました。当日はギャラリー・ツアーの後、グループ・ディスカッションを行いました。ディスカッションでは、日頃は知り合う機会の少ない、所属や分野の異なる先生方が語り合う中、驚きや共感の声が聞かれました。例えば、学年の枠を取り払って学ぶスタイルを持つインターナショナル・スクールの話はとても新鮮でした。また、国際的な異文化理解に限らず、他者を理解することの課題は身近にも存在します。新興住宅地と古くからある地域の間では家庭環境や文化にも違いがあり、そうした子どもたちが共に学ぶ中で何が生まれるのか、さまざまなバックグラウンドを持つ子どもにどのような指導を行うかなど、興味深いテーマが挙がりました。


展示風景「ゴー・ビトゥイーンズ展:こどもを通して見る世界」
リネカ・ダイクストラ
《女の人が泣いています(泣く女)》
2009年
ビデオ・インスタレーション
12分(ループ)
Courtesy: Marian Goodman Gallery, Paris / New York
撮影:阪野貴也

ひとクラスの人数が多すぎる学習環境についての意見もありました。ある先生は、9人の子どもがピカソの有名な絵画《泣く女》を見ながら、主人公に何が起こったのかを語り合うリネカ・ダイクストラの映像作品《女の人が泣いています(泣く女)》を見て、子どもたちとの丁寧なコミュニケーションを取る理想的な人数だと感じたそうです。こうした対話は30人以上では難しいとの感想が聞かれました。

ところで、美術館見学で子どもたちが得られる学びとは何でしょうか。先生方からは、「公共の場所に出て行く体験」、「非日常の空間を感じることから始まる、感性への刺激」、「現代アートは、作家の意図や社会背景を知ることができる」、「創造力はこれからの子どもたちに重要な学力」など、興味深いコメントをいただきました。また、公立や私立など学校の方針によっても自由度は異なり、校外活動は学校全体の理解、協力があってこそ実現できるということも痛感しました。


2014年6月14日(土)に開催した「子どもキャプション・ワークショップ」の様子
撮影:御厨慎一郎

子どもたちの作品への感想をキャプションとし、会場内に展示する「子どもキャプション・プロジェクト」の準備期間に、あるスタッフが幼い子どもと共にジェイコブ・A・リースの写真を見ました。貧しい子どもたちが屋外で身を寄せ合って暖を取る風景をとらえた写真ですが、その子どもは「せまいところでみんなでギュっとしてる。いいなー。」と呟きました。

このエピソードを伝えると、ある先生が「大人ならば同情心を抱き問題を解決しなければと考えるが、当時撮られた子どもも、自身の環境をポジティブに受け止める力をきっと持っていたと思う。これが、子どもの“生きる力”ではないか。」と話し、皆で大いに納得しました。子どもの“生きる力” に触発されてさらに熱のこもった議論が続く中、タイムリミット。プログラム終了後も話は尽きず、お互いの連絡先を交換し合うなど先生同士の交流は続きました。


ジェイコブ・A・リース
《街に眠る浮浪児たち(「我々以外のこの世のもう半分の人々はどう生きているか」シリーズより)》
1980年頃
 
「子どもたちのこえ」より
「せまいところでみんなでギュっとしてる。いいなー。もしかしたらおうちがなくて、そとですんでいるのかな。」

多くの課題は短時間で解決できるものではありません。先生方と美術館が深刻な事柄についてもフランクに話し合えたこと、そして普段会うことのない他校の先生たちが互いに情報交換する場になったことは大きな成果でした。

フィールドの異なる先生方が、美術館や現代アートを通して出会い、教育について共に考えるプラットフォームを創出する意義を感じました。次回展以降もこうした取り組みを通じ、先生方や子どもたちと現代アートの精神が響き合うプログラムを共に考えていきたいと思います。

文:白濱恵里子(森美術館パブリックプログラム エデュケーター)

*子どもたちが制作したキャプション「こどもたちのこえ」を展示室内に展示しています。子どもたちはどの作品をどう見たのでしょうか。会場でご確認ください!

*「ゴー・ビトゥイーンズ展」のトークシリーズでは、現在そして未来に向けて子どもたちをめぐる問題を共に考えます。8月15日の第3回「子どもとアート」では降旗千賀子氏(目黒区美術館学芸員)をお招きして開催します。ぜひ、森美術館ウェブサイトからお申込みください。
 

<関連リンク>

「ゴー・ビトゥイーンズ展:こどもを通して見る世界」
会期:2014年5月31日(土)-8月31日(日)

「MAMプロジェクト021:メルヴィン・モティ」
会期:2014年5月31日(土)-8月31日(日)

子どもたちが作品解説作りに挑戦!
7/18から公開「子どもキャプション・プロジェクト」

次世代の子どもたちに、私たち大人ができることとは?
「ゴー・ビトゥイーンズ展」トークシリーズ 第1回「子どもと社会」 レポート

カテゴリー:03.活動レポート
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