大人の常識や伝統の枠組みにとらわれない子どもの創造性と、その多様な感覚に迫る「ゴー・ビトゥイーンズ展:こどもを通して見る世界」の会期も8月31日までとなり、本連載も最終回となりました。今回はオランダのアーティスト、リネカ・ダイクストラの作品を紹介します。日本初公開となる本作を、担当キュレーターはどのように見ているのでしょうか?
リネカ・ダイクストラ
《女の人が泣いています(泣く女)》
2009年
ビデオ・インスタレーション
12分(ループ)
Courtesy: Marian Goodman Gallery, Paris / New York
リネカ・ダイクストラ
子どもたちがこちらを向いて議論しています。どんな格好をしているか、なぜ泣いているのか・・・どうやらある女の人について語っているようです。お葬式に行った帰りとか、夫が戦争で死んだとか、恨みをもったお化けだとか、ミステリアスで少々不気味な話題でもちきりです。
これはイギリスのリバプールで撮影された映像で、子どもたちの目線の先には、ピカソの有名な絵画《泣く女》(1937)の複製画が置かれているのです。キュビズムの手法で描かれた女性像を見ながら、子どもの想像力は留まるところを知りません。友達の意見に触発されて、みな争うように持論を披露します。「悲惨な運命を背負った女」のイメージが湧いてきたと思ったら、「うれしくて泣いてるんじゃない?喜びの涙かも」というまったく新しい解釈が飛び出します。
眉間にしわを寄せ、友達の肩に寄りかかりながら、真剣に話す姿が微笑ましい子どもたちですが、一枚の絵からこんなにも想像をふくらませてしまう力には圧倒されます。絵画の枠を超えて、彼らは見えない世界にまで踏み込んでいくのです。
このおそるべき想像力は、かつて子どもだった私たち誰もがもっていたもの。眠っている力を思い出し、狭い「現実」の世界からしばし「トリップ」してみませんか?
文:荒木夏実(森美術館キュレーター)
展示風景「ゴー・ビトゥイーンズ展:こどもを通して見る世界」
リネカ・ダイクストラ
《女の人が泣いています(泣く女)》
2009年
ビデオ・インスタレーション
12分(ループ)
Courtesy: Marian Goodman Gallery, Paris / New York
撮影:阪野貴也
<関連リンク>
・「ゴー・ビトゥイーンズ展:こどもを通して見る世界」
会期:2014年5月31日(土)-8月31日(日)
・1分で読む!「ゴー・ビトゥイーンズ展」
(1)ジャン・オー《パパとわたし:No.29》
(2)金仁淑《ひいおばあちゃんと私》
(3)ストーリー・コー《Q&A》
(4)梅佳代《女子中学生》
(5)スヘール・ナッファール&ジャクリーン・リーム・サッローム 《さあ、月へ》
(6)リネカ・ダイクストラ 《女の人が泣いています(泣く女)》